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パスポート・コントロール

Part1 まずはサンフランシスコへ

 不健康な朝食を食べ、また、うとうとしているうちに、ついにサンフランシスコに到着です。 現地時間3月20日(土曜日)11時32分。日本時間ではそれに16時間足しますから、27時32分。つまり、もう翌日(21日)の深夜3時32分です。携帯電話の方を日本時間そのままにしておき、腕時計の方を現地時間に合わせます。これはなかなか便利です。しかし、日本では何時だろうと、いちいち携帯を見るのが面倒な場合は、16時間の時差では、腕時計の現地時間から8時間引いて、一日(24時間)足せばいいのです。つまり、―8+24=16。現地時間11時32分―8時間=3時32分。それに24時間足す。すると翌日の午前3時32分。この計算は簡単です。しかし、仮に現地時間が午前5時32分の場合、ちょっと頭が混乱してきます。5時32分―8時間=-3時32分。それに24時間を足すのであれば、―3時32分+24時間=? 何かややこしくなってきましたね。こういう場合は、携帯を見ることにしましょう!
 パスポートコントロールです。アメリカはテロのせいで、イスラエルについで、おそらく世界で最も入国管理の厳しい国でしょう。中国系アメリカ人とおぼしき、年のころ30代半ばの審査官が、何の目的でアメリカにやってきて、どれほど滞在し、アメリカの次はどこに行くのかとききます。アメリカ化学学会に出席するためというと、招待状を出せとか何とかいわれて面倒くさそうなので、友人に会い、4、5日滞在し、次はペルーに行くと答えます。このペルーに行くといったのがまずかったのです。
「何しにペルーに行くのか?」
「アマゾンに行くため」
「何しにアマゾンに行くのか?」
「アマゾンの薬草に興味があるから」
この返答もまずかった!
「薬草?」
麻薬関係と思ったのでしょうか。
「イエス、薬草」
「お前の仕事は何か?」
「ジェネラル・フィズィシャン(一般内科医)。それと皮膚もみている」
「ジェネラル・フィズィシャンが何でアマゾンの薬草に興味があるのか?」
「癌や乾癬やアトピー性皮膚炎を治す、薬草を探している」
 うさんくさいやつだというふうに、審査官はぺらぺらと僕のパスポートを見て、そこにパキスタンのビザを見つけます。これは、非常にまずい!!
「お前は何でパキスタンに行ったのだ?」
 こっちとしては、そんなことどうでもええやんけ、お前の知ったことかWhat’s problem? It’s none of your business!! といいたいところですが、 フンザこの際、正直に答えたほうがいいと思い、
「フンザという、カラコルム山脈のふもとにある村に行くためだ」
「フンザ?」
「イエス、フンザ」
「どんな綴りだ?」
「H、u、n、z、a」
「なにしにその村にいったのだ?」
 そろそろ、こっちもかっかしてきます。
 大阪弁風に書くと、
「ワシはタリバンとちがうで、おっさん。フンザはなぁ、癌のない村ということで、世界的に有名なんや。医学的に非常におもろいから、そこに行ったまでなんや」
「ジェネラル・フィズィシャンが何で癌に興味があるのだ?」
 この、くそったれ、
「ジェネラル・フィズィシャンが癌に興味をもつのは当たり前と違うか。アメリカのジェネラル・フィズィシャンは癌に興味をもたへんのか?」
 読者は僕がかくも流暢に英語が話せるものかと、このへんで疑うかもしれませんが、普通はたどたどしい英語ですが、喧嘩っぽくなったときは、やたらと流暢になるのです。
「航空券を見せろ」
 最近はすべてe-Ticketですから、コンピュータでプリントアウトしたものを、ペルーの分を含めて全部見せます。それで、ようやく納得したのか、次は指紋です。
「ここに、右手の4本。次に右手の親指」
 パネルの上に、いわれたとおり乗せます。
「次は、左手の4本。そして、親指」
 僕だけでなくすべての外国人は指紋を取られます。
「次は顔写真。こっちを向いて、めがねをはずして」
 これは、網脈スキャンを撮るためかもしれません。網膜の血管は、双生児であっても同じではなく、しかも白内障、緑内障などにかかっていないかぎり、一生変化しないといわれています。誤認率は、100万人に一人あるかないかです。
 これで、映画だけでしか見なかった、数億人のデータをコンピュータで一瞬のうちに篩い分け、犯罪者やテロリストを探しだすシーンが、僕の場合にも現実となったのです。あんまりいい気分ではありません。
 そして、次の管理は、DNAです。これは、究極の個人情報です。しかも、髪の毛1本でことは足りますから、やがて、そうなるのは時間の問題でしょう。「テロとの戦い」というもっともらしい目標をかかげ、本当のところは自国のアメリカ人のみならず世界中の人間を管理しようとしているのです。もし、ぼくがアメリカを真に支配している人間どもの邪魔になると判断された場合、世界の果てまでおっかけてきて、ぼくを抹殺することでしょう。事故死、あるいは心臓麻痺、あるいは理由の不明な自殺。恐ろしいことではありませんか!!


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