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モンスター患者(2)

Part1 まずはサンフランシスコへ

 僕もこれに似たような経験があります。二十歳くらいの女性患者です。のどが普通より少し太いので念のために、甲状腺の機能をチェックしておきなさいとアドバイスしました。本人はそんなに太いと思っていなかったようなので、横にいた看護婦の首と比較してみたらと言って、手鏡を渡して納得させました。僕のところは健康保険が使えないので、高くつくので、保険がきくところでやるようにすすめました。後日、異常はなかったという連絡があったのですが、異常なしといっても、正常の下限ぎりぎり、あるいは上限ぎりぎりの場合はよくあります。正確な値が知りたかったので電話したところ、母親が出て、こう言ったのです。
  「広島大学でちゃんと検査してもらいました。まったく異常がなかったということです。おたくとこでは、鏡まで使って、娘をおどしたそうですね」 ガチャン!!です。ガチャンと電話を切ったのは、もちろん僕でなく、この愚かな母親です。こんな患者が現実にいるのですぞ!!  

 こういう理不尽なことを言う患者がどんどん増え、数が多すぎて喰いっぱぐれる弁護士たちと組んで、医療訴訟を頻繁におこす国がアメリカです。そのため、医者は訴訟のための保険に入ります。産婦人科などになると年間約1500万円の掛け金です。月に120万円以上です。これじゃ、いくら稼いだとしても残りません。そのため、医者になっても医者をやめていく医者が多いと聞きます。長年カルフォルニアに留学されていたA先生いわく、カルフォルニアでは約三分の一の医者が、転業するらしいのです。

 アメリカの医学部は日本やヨーロッパと違って、まず4年生の大学を卒業してからでないと、入学資格がありません。そして、多くが私立です。つまり、医者になるには、膨大なお金がかかるということです。それなのに、三分の一がやめるのです。

 この原因をつくっているのが、他ならぬ、患者自身なのです。他にも原因はありますが、僕は、これは紛れもない深刻な事態だと考えています。しかし、このモンスター患者と喰いっぱぐれの弁護士どもが、日本においても医療崩壊の一つ大きな理由であるとは、普通の評論家は口が裂けても言いません。なぜなら、そんなことを公言すると、患者に媚へつらうマスコミの世界から追放され、食えなくなるからです。僕はマスコミの世界とは何の関係もなく、文筆で生活の糧を得ているわけではないので、大胆に公言するのです。

 また、毎日、診療にあたり、モンスター患者とまでは行きませんが、理不尽なことを質問し、要求する患者の増加に日々悩まされています。そして、いつでも訴訟を起こされる可能性を考えてアドバイスもしなければいけない苦労を肌身で感じているのです。

たとえば、よくある質問ですが、

「私は妊婦です。アトピーで全身が痒く夜も眠れないのですが、ステロイド入りの軟膏を使っても問題はないでしょうか?」


僕はまさにのべ4万5千人以上のアトピー患者さんを診察しましたが、ステロイド軟膏を体に塗ったからといって、体や精神に問題のある子供が生まれたとか、あるいは早産や死産がおこったということを経験したことは一度もありません。したがって、ステロイド軟膏を使っても問題はありませんよ、と本音はアドバイスしてあげたいのです。しかし、もし、万が一、死産や早産が、他の原因でおこった場合でも、ドクター牧瀬の誤った指導によりステロイド軟膏を使ったために、そういうことがおこったということで、訴訟を起こされるかもしれません。ですから、回答は、不愉快な訴訟を想定して、それを避けるために、次のよう書かざるを得ないのです。特にインターネットでの質問の場合、記録として残るわけですから、非常に慎重になります。

 

「まず、問題はありません。しかし、万が一のこともありますから、我慢ができるなら、可能なかぎり、使わないでください」

 こういう回答なら、もしも不都合なことがおこったとしても、患者さん、あなたの我慢が足りなかったからですよ、可能なかぎり使わないでくださいと、私はアドバイスしたではありませんか、とかろうじて逃げられるのです。ここまで、医者は追い詰められているのです。そのへんの現実も見ないで、わが身の保身を考えながら患者にへつらい、くだらない論評をする評論家よ、そして、正義の似非味方の新聞社よ、口を閉じよ!! 出直してこい!!

 と、またまた怒ってしまいましたが、この風潮が続くと、特に訴訟をおこされやすい外科医、産婦人科医になる若手の医者が激減していくことは目に見えています。これは、まさに患者自身にふりかかってくる、大変な事態なのです。しかし、今さら、患者に反省しろと言っても、ここまで増長してしまっては、何の効果もありません。そこは、法律できっちりと外科医と産婦人科医は守ってあげなくてはいけません。つまり、手術室ならびに分娩室は、完全な治外法権の場所であり、司法の手は及ばないとまでしなければならないのです。これで、やっと外科医と産婦人科医は守られるのです。

 暴論でしょうか? しかし、この暴論を吐かせるまで、患者は甘やかされているのが現状なのです。患者に媚びるような評論家は、まさに、患者自身の健康を破壊していくのです。烏合の集にへつらい、結果的には患者の大切な命さえ奪う、亡国の輩なのです。
ワシを厚労省大臣にせよ! 日本の医療を根本からたたきなおし、平均寿命を100歳にせしめよ!(やっぱり、次の選挙には立候補しましょうか? 冗談ですよ。こんなに怒っていますが、ほんとは優しいのです)。

 と、かなり話題がそれてしまいましたが、明日はいよいよペルーなんです。


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