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近親相姦のタブー

Part3 ペルー

 こういう話が聞けるのは、カワサさんのスペイン語を東江さんが日本語に翻訳してくださるからです。カワサさんの言葉はもちろん部族の言葉であり、スペイン語とは何の関係もありません。しかし、彼はイキトスの町に出たりして、自然にスペイン語を覚えたそうです。
東江さんが半ば冗談に、カワサさんに今でもヒバロ族は首狩りをやっていて、狩った首からミイラをつくるのかときくと、あれはワンビーサ族が始めたことなので、私たちが最初にやり始めたことではないとおっしゃる。昔から部族同士の抗争はけっこうあったのです。
それはもっぱら、限られた地域で、特にアマゾンの水位が増したときに、食物がなくなるために、食料調達のためにおこるそうです。また、戦いで勝ち取った女性には子どもを産ませ、近親結婚からくる弊害を可能なかぎり防ぐそうです。先住民も近親相姦を避けていたのです。

人類学でもっとも研究されているものの一つが近親相姦の禁止です。なぜ人類はそれを避けるのか?
社会によっては、殺人以上のタブーです。近親婚を重ねると、生物学的によくない結果が生まれるからだということだけでは、今のところ説明できない部分があります。
レヴィ=ストロースはこれに対し、独創的な解答を見つけ出します。近親相姦のタブーは、女性を社会的に交換していくための規則であり、それによってその社会を維持していくための無意識的なシステムであるというわけです。

と、わかったような感じで書いてしまいましたが、ほんとのところ、僕にはよくわからないのです。そもそも、交叉イトコ(母の兄弟の子供と、父の姉妹の子供)、平行イトコ(母の姉妹の子供と、父の兄弟の子供)などの親族関係を表す言葉が現れてくると、僕の思考能力の雲行きが怪しくなってきます。
本人が男性の場合、父方のおばの娘との結婚、あるいは母方のおじの娘との結婚(これを交叉イトコ婚と呼びます)は奨励され、父方のおじの娘、あるいは母方のおばの娘との結婚(これを平行イトコ婚と呼びます)はタブー視される・・・このへんまでくると、家系図を書いて、何度も見直さなければならず、そのうちあくびがでてくるのです。

つまり、僕は人類学を学ぶほどの忍耐力に欠如しているのです。
まだ、リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」の方が、すっきりとわかりやすいのです。生命とはDNAを運ぶヴィークル(乗り物)にすぎないという単純さです。一見すると利他的行為ですら、自分のDNAをいかに効率よく子孫に伝播していく利己的行為であるかということを、単純な計算式で証明しています。この単純明快さでもって、自分のDNAを残すためには、交叉イトコ婚の方が平行イトコ婚に勝るとは証明できないのでしょうか。だれか計算を行った人はいないのでしょうか。おそらく、何か遺伝学的に重要な係数が、掛け算するときに抜け落ちており、交叉イトコ婚と平行イトコ婚には、遺伝的には差異がないとでてしまっているのではないでしょうか。しかし、仮に、遺伝学的に重要な係数が発見され、「近親相姦のタブーは、女性を社会的に交換していくための規則である」というような、かなりわかりづらい説明をしなくてすむようになったとしても、レヴィ=ストロースの偉大さには変わりはありません。ぜひ一度、「悲しき熱帯」という彼の本をお読みください。決してあくびはでませんから!


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