1)9割主義

100あるアトピーの症状を9割り改善し、10にまでもっていくことは、簡単なことです。しかし、それを5に減らし、3に減らし、1にするのは事実上かなり難しいのです。
ステロイドの内服を続ければ、100のところがほとんど0にまでなるでしょうが、それではできるだけ副作用のない治療をやろうという本来の趣旨に反します。

症状の90%は今まで述べてきた方法で確実に改善できます。
しかし、あとの10%をきれいにしようとすると、けっこうな努力が必要とされることがあります。

たとえば、肉ジャガの肉はさけて食べないのは当然ですが、肉の汁がジャガイモや糸コンニャクについているからといって、ジャガイモも糸コンニャクも食べないというほどの食事制限になってしまいます。
すると、それがストレスになって、せっかく9割り改善されていたのが、そのストレスのために、逆に8割り、7割りと減ってくるということがおきてしまうのです。
また逆説的ですが、ストレスがいけないというので、ストレスを必死になって避けようと努力するために生じるストレス。この現実生活でストレスのない生活は事実上ありえないのです。
ある程度、ストレスはかかるものだと諦めなければいけません。したがって9割りも改善されたら、もう、それで十分という気持ちでいたほうがいいのです。9割主義で行くのです。

それと、アトピーが治ってから仕事を始めよう、あるいは大学に行こう、あるいは恋愛しようというような考えは即刻放棄して下さい。 アトピーが治ったら、何々しようでは、一生何もできなくなってしまいます。
ある程度、アトピーと共に生きるという覚悟がなければ、大事な人生をぼうにふることになります。特に若いアトピー患者さん、勇気をもって前に進みましょう。それには、9割り主義で行くことです。

そうすることによって、かえって改善するのです。何となく説教じみて申し訳ないのですが、これはアトピーのみならず、すべての慢性的な病気にあてはまることなのです。
いかに持病とうまく折り合いをつけながら生きて行くかです。そして、ある程度妥協しながら前進するうちに、病の方がひとりでに後退してくれるのです。

また、アトピーが治ったら人生が変わるのという考えも放棄してください。幼少のころからアトピーでさんざん苦労された患者さんで、ぼくの療法で、46歳になって良くなられた方がおられます。
その人が、いみじくも、こう言われたのです。「このアトピーさえ治ったら、私の人生は劇的に幸福なものになるだろうと思っていました。しかし、ほとんど完治した今、私の人生は何ら変わっていないことに気づいたのです。」

これは名言です。実際に、数十年悩んだ人がこう言われるのですから、たいへん重みがあるのです。

2)完璧な肌など存在しない

9割り主義を許さず、あくまで完璧な肌を追求する姿は、「病との共生」という概念が希薄化した現代が胎む特異的な現象かもしれません。
「病気」をひたすら排斥し、しゃにむに「健康」を追求せんとする、偏執狂的なまでの執着が、ぼくたちの文化の中にいつのまにか忍び込んでしまったようです。

一病息災とは対極をなす、激しい意志であり、渇望であり、抑制のきかない熱狂とさえいえるかもしれません。

「病気」は最下位にあり、トップにあると勝手に解釈している「健康」に向かって一直線にひた走る姿が浮かんできます。幻想にすぎない「完璧な健康」をゴールにするジョギングのようなものでしょう。

しかし、忘れてはいけないのは、無茶なジョギングの最中に心筋梗塞をおこして死亡することもあるということです。こういう妥協を許さないかたくなな態度は、「健康」というものをどこかで「完璧な肉体」にすり替えてしまった結果生じたのではないでしょうか。

医学本来の使命も、つまり人々の「健康」を維持するという役目も、知らぬまに「完璧な肉体」を追求する手段に変貌してしまったようです。

しかし、「完璧な肉体」というものは、初めから存在しないと考えるほうが、理に適ってはいないでしょうか。年令、性別、人種、環境に応じて、ホモ・サピエンスの肉体は非常に幅広い変異をもっています。

そして変異をもっていたからこそ、今まで生き延びて来られたわけです。20才の青年と80才の老人は、こと皮膚に限っても、たいへんな違いがあります。
もちろん青年の肌のほうが染みもしわもなく、はりがあり、老人の肌より美しいかもしれません。しかし、老人の肌がそうでないといって、病的であるとは決していえないのです。

おそらくこういった、ちょっと考えてみると奇異とまでにうつる「健康」指向、つまり「完璧な肉体」への妄執は、下等生物から高等生物へと生物は進化していき、その過程には適者生存の原理が働くといった、およそ150年も昔に唱えられたダーウイニズムの残滓が、未だドグマとしてぼくたちの意識を呪縛しているせいかもしれません。

しかしドグマはあくまでドグマであり、決して厳密な実験で証明されたものではありません。いわば宗教と同じようなものなのです。
しかし欧米の文化が世界を圧倒している限り、このドグマの呪縛はしばらく続き、シュワルツェンネッガーのような肉体へと人々はなびき続けるのでしょう。

それが悪いとはいいませんが、極端になると、やはり危険なことではないでしょうか。「完璧な肉体」が幻想であるように、「完璧な肌」など存在しないのです。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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