2006年9月27日の毎日新聞によると、「適切なうつ病治療を受けているのは1/4 日本うつ病学会、研修の実施検討」という見出しで以下のような記事が載っています。

『企業の合理化とコスト削減で、仕事量が増え、うつ病に悩む会社員も増えている。きちんとした治療で完治も可能だが、「適切な治療を受けているうつ病患者は全体の4分の1に過ぎない」(中根允文・長崎大学名誉教授)との指摘もある。日本うつ病学会は適切な治療のできる精神科医の養成が急務だとして、研修の実施を検討している。』

以上の記事のように、うつ病患者さんの4分の3が適切な治療を受けていないのです。これは実に恐ろしいことで、いいかえれば、治療を受けたゆえに悪化している人が75%いるということです。
まさに、現代のうつ病のほとんどは医源病なのです。私の経験からすると、医薬品を少しずつ減らしていくと、多くの患者さんがかえって改善していきます。

その大きな理由の一つは、基礎となるホルモンのアンバランスを見逃し、単に抗うつ剤のみが処方されていることが非常に多いからです。
「うつ」かなと思うと、たいていの人は精神科か心療内科に行きます。
そこでは、問診が主に行われますが、男性ホルモンや女性ホルモンが検査されることは、まずありません。しかし、男女とも更年期の一つの症状として、「うつ」があるのです。
また、甲状腺機能低下の場合も「うつ」がおこります。副甲状腺機能亢進では血清カルシウムイオンが増え、うつをひきおこすことがあります。
つまり、セックスホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンをチェックしないで、抗うつ剤が投与されることがしばしばおこっているのです。
ましてや、5分診療で、症状を口頭できき、「ふん、ふん、そうですか、それじゃ、とりあえず、抗うつ剤でもだしておきましょう」というような医者には絶対にかからないことです。
抗うつ剤は、「とりえず」といった軽いノリで、処方されるような薬ではないのです!
あなたの人生をだいなしにしてしまいます。熟考に熟考を重ねたのちに、やっと処方されるべき薬なのです。しかし、また、食事療法、ヨガ、座禅、瞑想などだけで治そうとする医者たちにも注意してください。
また、そういったものでうつ病は治せると主張する、しろうと向けの本がけっこうでていますが、多少の助けにはなるかもしれませんが、鵜呑みにしてはいけません。うつ病はそんなに簡単なものではないのです。数は多くはありませんが、抗うつ剤が必須のうつ病もあるのです。

まず、今、服用している薬をチェックしてください。
ほとんどの医薬品は程度の差はあるものの、副作用として「うつ」をおこす可能性があります。
特にスタチン系のコレステロールを下げる薬には注意してください。これの副作用として、いちばん多いのは筋肉痛ですが、記憶障害や脱力感を伴う「うつ」もあります。それを止めただけで、すっかりうつ症状がよくなる場合もあります。
また、漢方薬にはもともと副作用はなく、あったとしても胃腸障害くらいだというのは大きな間違いで、たとえば、肝炎によく使われる小柴胡湯は偽アルドステロン症をおこすことがあり、そのためひどい脱力感をおぼえ、それが「うつ」と感じられることもあるのです。
また、ステロイド剤の長期内服も「うつ」症状をおこしやすいのです。

次に、基本的に甲状腺や副甲状腺に異常がないか、内科(できれば内分泌専門医)でチェックしてください。
また、このサイトの甲状腺機能低下症の欄もお読みください。軽いうつ症状を示す人では、甲状腺機能が下限ぎりぎりで、いちおう正常範囲内に入っている人が多いのです。そういう場合、医薬品は使う必要はないかもしれませんが、特に、ビタミン、ミネラルの補給が大切です。
あるいは、「ReverseT3 Dominance」の状態かもしれません。おそらく、うつ病と診断されている人たちの約2割は、「リバースT3優位」だと推測されます。普通、「リバースT3(rT3)」をはかることはありません。はかってくれといっても断られた患者さんがおられました。あるいは、副甲状腺機能亢進でカルシウムイオンが多すぎるのかもしれません。
そして、あなたが40歳以上で、男であれば泌尿器科、女であれば婦人科に行き、更年期障害の可能性をチェックしてください。また、このサイトの女性更年期障害/男性更年期障害の欄もお読みください。

以上、甲状腺機能、副甲状腺の異常、更年期障害が二つとも否定された場合、それから、心療内科や精神科に行ってください。
つまり、最初にどの科にかかるかが問題なのです。
本来、心療内科医や精神科医が「うつ」症状をみた場合、内科的、泌尿器科的、婦人科的疾患を除外するという最初の作業をしなければいけないのですが、それを多くの現代の心療内科医や精神科医たちはおろそかにしているのです。
あまりにも専門化しすぎてしまったのかもしれません。また、内科医が十分な診察を行わず、簡単に抗うつ剤をだしてしまう傾向があります。非常に遺憾なことです。

ほんとうは甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症あるいは更年期障害(男性も含めて)であるにもかかわらず、うつ病と誤診されることがけっこうあります。
この場合、抗うつ剤は何の役にも立ちません。
長年、抗うつ剤を服用している人は、一度、内科、あるいは泌尿器科、婦人科に行かれ、再検査されたほうがいいでしょう。
女性更年期の場合、エストロゲンやプロゲステロン、男性更年期の場合、テストステロンを補えば、実に簡単に治癒されることがあります。

うつ病治療の基本は、1種類の抗うつ剤を一定期間、一定量出して、症状を診ながら別の薬に切り替えていくことなのです。それを2種類も3種類だされていたら、その理由を医者にきいてください。
もし、いいかげんな答えしかかえってこなければ、他の病院にかえてください。

医者は経営のために、あまりにも医薬品を処方しすぎです。
アメリカの場合、1996年~2006年にかけて、抗うつ剤の投与は子供に対しては50%増し、成人には73%増し、老人に対しては100%増しています。日本の場合、欧米と比べると10倍近く抗うつ剤が処方されていますから、おそらくその増加率もすさまじいものでしょう。
実に由々しき事態です。人によっては3種類から4種類ものんでいます。しかも、6年、7年とかなり長期にわたっています。
それでもって、非常に改善したという患者さんにお目にかかったことがないのです。ただ、患者さんは、そういった数多くの医薬品を服用し続けなければ、不安で仕方がないのです。薬に対する心理的依存症を、医者自身がつくりあげてしまっているのです。この現実は、特に心療内科や精神科の重大な責任です。

現代は、インターネットの発達のおかげで、外国から簡単に、覚醒剤まがいの医薬品さえ個人輸入できる時代になってしまいました。そのため、プロザックなどのSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を個人輸入して服用している人も増えてきています。極めて危険です。
また、早漏防止のために、SSRIを服用するなど、これほど愚かなことはありません。 男性が服用すると、しばしば性欲がなくなってしまいます。
特に若い男性が性欲を失い、勃起しなくなると、それによって、また落ち込んでしまうという悪循環におちいります。
医薬品は可能なかぎり避けるべきです。また、子供に抗うつ剤は非常に慎重に投与されなければいけません。抗うつ剤をのんでいる子供は、15倍も自殺率が高いことをごぞんじでしたか。

うかつに医薬品に頼ると、薬漬けになってしまいます。典型的な悪しき処方例をあげましょう。これは16歳の女子高生に実際に処方されていました。
パキシル(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)+アモキサン(三環系抗うつ剤)+デパス( マイナートランキライザー)+レンドルミン(睡眠薬)。これだけ服用しているので、患者さんは眠くなったり、だるくなったり、回りに無関心になったりして、勉強がまったくできなくなり、日中はほとんどボーッとしていることが多くなります。
したがって、休学。家でぶらぶらしている。次第に夜と昼が逆転し、就寝時刻が午前5時、つまりほとんど朝になってしまいます。そして、起きるのが午後2時か3時ごろ。

こういう患者さんが非常に多いのです。昼夜逆転というそれ自体が、うつを悪化させます。しかし、そうならざるを得ないような処方なのです。この患者さんの場合、アトピー性皮膚炎がもとで、いじめにあったのが原因です。
甲状腺に異常はなく、家系的に精神病の患者さんはおられません。これっといった重大な既往歴も、また家族歴もありません。
アトピーの治療に重点をおき、睡眠薬を減らし、ビタミンやミネラルのサプリメントに徐々に置き換えていくと、1年ほどで、抗うつ剤はまったく必要でなくなりました。ひきこもりが続いて、高校を中退してしまったので、今は大検を受けながら、大学進学を目指しています。
アルバイトなどをして外にでて、できるだけ体を動かすように指導しています。
食事は和風に。むかし、日本には今ほど「うつ」は見かけませんでした。それが、なぜ、こんなに増えたのでしょうか? ひとつの理由として、食事が関係してきます。つまり、欧米風の食事 の乱入です。肉食の過剰です。チーズ、牛乳、ヨーグルトも含めた高タンパク質の食事です。
たいていの高タンパク質の食物は非常にたくさんの種類のアミノ酸を含んでおり、しかも、トリプトファンの割合が少ないのです。すると、そういったアミノ酸どうしで脳への取込みのさいに競争がおこり、炭水化物を主体とした食事よりむしろトリプトファンは脳に到達できず、必然的にその代謝物であるセロトニンの脳内の濃度が低くなるのです。
また、高脂肪の食事はデプレッションにもよくなく、敵意も高めるという研究があります。肉食は、菜食よりずっと多くの脂肪を含んでいます。また、最初のところで述べたホモシステインが、高蛋白の食事から当然それだけ余分に代謝されてきます。これも「うつ」を惹起させる要因になります。

もちろん、気候を含めた風土、それに歴史にも影響されるでしょうが、人間は生物であるかぎり、それを構築しているタンパク質の質が最も基本なのです。向こうの医学関係の雑誌や本を読んでいると、やたらに、depression(うつ)やanxiety (不安) 、という言葉がでてきます。それほど深刻なのです。

精神分析とキリスト教は日本についに根をおろすことはできなかったといっても大きな間違いではないでしょう。
その理由の説明に、歴史的にどうとかこうとかという難しい議論は無駄です。答えはじつに簡単です。
つまり、単純に、精神分析もキリスト教も日本人には必要でなかったからです。しかし、ヨーロッパではいたく必要だったのです。なぜなら、深刻なdepression(うつ)や anxiety(不安)にかられた人たちには、それらはとても助けになったからです。

キリスト教には懺悔があり、ミサがあり、パイプオルガンがあり、バロック音楽があります。重く冷たくメランコリーな精神のカタルシスを助けてくれる小道具がそろっているのです。精神分析医の役目は懺悔を聴く牧師と本質的には同じです。
ただ前者は神なる絶対者にちょっと席をはずしてもらい、牧師がまとう荘重な衣裳の代わりに似非科学の衣裳をもっともらしくまとい、患者の精神のカタルシスを手助けしているだけなのです。
(精神分析は断固として科学ではありません。すぐれた文学であるとしても、似而非なる科学なのです)。
精神分析はキリスト教を必要とする人々の中でしか生まれてこなかったしろものなのです。つまり、ヨーロッパという土壌にはdepression(うつ)や anxiety(不安)という肥料がじゅうぶんに存在していたのです。

ムンクのあの有名な「叫び」という絵はそれを端的に物語っています。日本の画家がどんなに想像力をたくましくしても絶対に描くことができない、どこか生理的に異質な迫力があります。
あの絵をみていると、フロイトのいいたかったことがすべてわかるような気がします。depression(うつ)や anxiety(不安)は彼らにとって、血や肉の一部なのです。
つまり、食事なのです。

19世紀後半から20世紀半ばにかけのペシミズムに彩られた実存主義哲学の出現は、ギリシア哲学から始まる、あくびがでるように長ったらしい西洋哲学の系譜をたどらなくても、簡単に説明できます。
肉食に戦争という悲劇が組み合わさった産物なのです。キルケゴール、カフカ、ヤスパース、シェストフ、カミュたちに共通する depression(うつ) や anxiety(不安)は、哲学的というよりも生理的です。つまり一言でいえば、食物のせいなのです。しかし、こんなにあっさりとけりをつけてしまえば哲学科の先生からお叱りをうけるでしょうか。和食に戻りましょう!

注意:もし、あなたがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と同時に、アスピリン、ボルタレン、インドメタシン、イブプロフェンといった非ステロイド系消炎鎮痛剤を服用している場合、消化管出血の頻度が非常に高くなります。注意してください。

「うつ」かなと思ったときの手順を最後にもう一度、簡単にまとめておきます。

  1. 服用している薬(ハーブ、漢方薬も含める)の副作用をチェック。
  2. ホルモンの異常やアンバランスを検査(甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、性ホルモンのチェック)。
  3. 以上に問題がない場合、サプリメントを試してみる。
  4. それでも、改善しないときに、心療内科か精神科にかかる。

適切な、サプリメント処方を希望される人は、一度、私の診察を受けてください。その際、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン、性ホルモンの検査を、健康保険のきく普通の病院かクリニックで行って、そのデータを持ってきてください。
時間的か距離的に大阪の私のクリニックに来ることが無理な人は、そういうデータをメイルで送って、問い合わせてください。

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

  著作権に関する表示:当ウェブサイト内のすべてのコンテンツ(記事/画像等)の無断転載及び無断転用(コンテンツを無断流用した改変の掲載も含む)は固くお断り致します。

Visits: 1325