骨粗鬆症は特に閉経後の女性ホルモンの分泌がわずかになった女性に多い疾患です。全国900万人の骨粗鬆症の患者さんのうち8割近く、つまり700万人は女性です。
閉経後の5~7年は、毎年2%~5%の骨が失われていくといわれています。また男性も女性ほどではありませんが、加齢とともにテストステロンが減少するにつれて、骨粗鬆症にかかりやすくなります。
したがって、こういった性ホルモンを補って骨粗鬆症を防ごうという治療があります。いわゆるホルモン補充療法です。その是非については他のところで述べることにし、まず簡単に実行できる四つのことを述べます。

  1. コーヒーはできるだけひかえて下さい。コーヒーに嗜癖のある人は骨粗鬆症になりやすいのです。

  2. アルコールも骨粗鬆症誘発因子です。もっとも、グラス1~2杯のワインは健康にいいと証明されていますが、禁酒がストレスにならない程度にひかえた方が無難です。飲むときは、海鼠(ナマコ)かひややっこをさかなにして下さい。

  3. 缶入りのソーダ類は飲まないように。そこに含まれているリン酸塩が後述するパラソルモンの分泌を促し、骨の脱解をすすめます。またマグネシウムとも結合して、その働きを弱めます。

  4. 戸外を散歩して下さい。骨は無重力状態におかれると骨密度が低くなります。何らかの運動で、毎日、骨に重力をかけるようにして下さい。
    また戸外で紫外線を浴びることによって、ビタミンDが活性化されます。

  5. 白砂糖は骨粗鬆症にもいけないのですが、甘いものを断つのは難しいことです。しかし、人工甘味料に代えては絶対にいけません。キシリトールに代えてください。これはむしろ骨密度を増す作用さえ確かめられています。

この中でいちばん実行しにくいことは2でしょうか。しかし、もっと実行しにくいのは禁煙です。ニコチンも骨粗鬆症誘発因子です。ほんとうはここにつけ足すべきことなのですが、無理なことを書いても仕方がないので、書かないだけのことです。

次に、「牛乳を飲みなさい」という指導には慎重な注意を払って下さい。牛乳の動物性タンパク質の過剰摂取は、しばしば腎臓からカルシウムの排泄を促す結果になります。人体が吸収する以上のカルシウムを外に出してしまうのです。この肝心な点が見過ごされて、牛乳をたくさん飲んでカルシウムを補いなさいという指導になってしまうのです。

ちなみに、アメリカでは2500万人が骨粗鬆症にかかっているといわれています。これを人口あたりにすると、日本の1.7倍です。ましてや、牛乳を飲みだしてから一世紀そこそこの日本人にとって、牛乳のタンパク質カゼインは異質です。そしてカゼインのみならず、牛乳の乳糖も分解できない、いわゆる乳糖不耐症なのです。ほとんどの日本人は、乳糖を分解する酵素であるラクターゼの活性を小児期に失います。この活性を成人になってまで維持しているのは、北欧系の人種で、世界人口のせいぜい2割ほどです。

そのまさに北欧のスウェーデン人でさえ、牛乳摂取量の多い人は、少ない人とくらべて寿命が短く、女性では骨折が増えるとの結果がでているのです!!ウプサラ大学とカロリンスカ研究所(ここでノーベル生理学・医学賞の選考が行われます)の研究者たちが、39歳~74歳の女性6万1000人を20年間、45歳~79歳の男性4万5000人を11年間、観察記録したもので、2014年10月28日のBMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に発表されています。BMJは世界五大医学雑誌の一つで、日本でも多くの医師に読まれています。(興味のある方は、http://www.bmj.com/content/349/bmj.g6015 にアクセスしてください)。

つまり、牛乳は胃が四つもある牛の赤ちゃんが飲むものであって、胃が一つしかないヒトが、積極的に飲むべき飲料なのでしょうか?スウェーデン人でさえ、こうなのですから、牛の赤ちゃんとは天と地ほど異なった、成長も止まってしまった日本のご老人に、いい結果を生むものなのでしょうか? はなはだ疑問を感じます。

また、アレルギー疾患なども、牛乳が大きく悪影響を及ぼしています。アトピー性皮膚炎の増加にも関係しています。牛乳のタンパク質の一種β-casomorphin-7が自閉症や統合失調症に深くかかわっているという研究も発表されています。牛乳を除いた食事で80%もの子供の症状が改善されたということです。
日本人と同じモンゴロイドであるエスキモーには、世界で最も骨粗鬆症が多いのですが、彼らは魚の骨からじゅうぶんすぎるほどのカルシウムをとっています。それでも骨が弱いのです。彼らは魚、セイウチ、鯨肉から大量のタンパク質を摂取します。
一日、250g~400gは摂るといわれています。日本人よりずっと肉を食べるアメリカ人のさらに二倍です。この動物性タンパク質大量摂取が災いしているのです。
カルシウムは緑黄色野菜や豆や穀類から補うのが正解なのです(その他、海苔にも、海藻にも、キクラゲにも、オレンジジュースにだってカルシウムは含まれています。もし、牛乳で補うとすれば、せいぜい1日1本でじゅうぶんです。それ以上飲んではいけません)。
そんなもので足りるのかといぶかる人は、牛、馬、そしてあの巨大な象でさえ、草食性であることを思い出して下さい。あの頑丈な骨格をつくりあげるのに、彼らは草しか食べていないのです。
それは、彼らが、例えば牛の場合、牛乳をしっかり飲んだからあれだけ立派な骨を持っているのではないかと反論する人がいるかもしれません。

もちろん、彼らが成長するにあたっては、牛乳なり、馬乳なり、象乳(?!)なりを飲んだでしょう。 しかし、肝心なのは、いったん骨格ができあがってしまっても、骨のカルシウムは毎日、刻々と代謝されているということです。
つまり、骨はいったんできて、固まったように見えても、それで終わりというのではないのです。

例えばヒトの成人の場合、毎日600mg~700mgのカルシウムが入れ替わっているといわれています。象の場合はどのくらいか知りませんが、もっと多量のカルシウムが骨と血液のあいだを行き来しているはずです。
それを彼らは草から補っているわけです。つまり植物には、私たち現代人が心配するより、ずっとじゅうぶんにカルシウムが含まれているのです。
つまり、ここでも野菜やくだものをしっかり食べなさいということになります。

そこで、生野菜がいいだろうということで、サラダが食事ごとにもられます。 しかし、いくらサラダを食べたところで、あの硬い生の野菜は消化されず、旧石器時代の人類ほどの消化能力がないかぎり、ほとんどのビタミンやミネラル(カルシウムもミネラル)は何も吸収されずに、 便としてでていってしまうのではないでしょうか? 2000年以上の歴史を誇る中華料理に、生野菜のサラダはありません。生野菜のサラダは、食の歴史がきわめて浅薄なアメリ流の食事の一つなのです(だから、アメリカには難病がものすごく多い)。

野菜は温野菜か、野菜スープにして摂るのが正解なのです。熱を加えると壊れるビタミンがあるのではないかと反論されそうですが、そういうことも考慮して、温野菜か野菜スープと言っているのです。ここでは、詳しく議論するスペースがないので省略します。

そして、医者はどっさりとカルシウムの錠剤を処方してくれるかもしれません。しかし、ことはそう簡単ではないのです。なぜなら、ヒトの小腸は穴のあいた機械的な篩(フルイ)ではないからです。

大量のカルシウムの吸収は、腎臓、心臓、膵臓、筋肉を含め、広範な組織に石灰化をきたし、危険であることくらいは人体そのものが熟知しています。常に小腸粘膜でどのくらいのカルシウムを吸収すべきかが計算されているのです。
それに直接関与しているのが、パラソルモンと呼ばれるホルモンです。

この84個のアミノ酸からなるホルモンは、甲状腺の裏側に上下1対計4個存在する副甲状腺(上皮小体)から分泌されます。そして、そのパラソルモンはビタミンDとともに働き、また、甲状腺から分泌される33個のアミノ酸からなるカルシトニンというホルモンと拮抗しながら、カルシウムの代謝を調節しているのです。
したがって、いくら大量のカルシウムをサプリメントで補っても、賢明な人体は、小腸粘膜からの吸収の段階で拒否してしまうのです。つまり、非常に厳密にコントロールされているのです。

さらにカルシウムはリン酸の濃度にも影響されますし、骨の形成にはシリコン、亜鉛、銅、ストロンチウム、マンガン、マグネシウム、モリブデン、ボロン、それにビタミンKなどもそれぞれ重要な働きをしているのです。単にカルシウムのサプリメントだけでは、とても不十分なのです。 いや、不十分などころか、かえって体によくないのです。余分なカルシウムはビタミンDの産生をじゃまします。

過剰なカルシウム摂取は1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール(活性型ビタミンD)のレベルを下げてしまいます。ビタミンDは、血圧を下げ、がんを予防し、不眠をやわらげてくれます。この大切なビタミンDが、余分なカルシウムの摂取で減ってしまうのです。
また、過剰にカルシウムをサプリメントからとると、亜鉛、銅、鉄、マグネシウムといった大切なミネラルの腸からの吸収が阻害されます。ですから、私は、あえてカルシウムをサプリメントで補うことをすすめないのです。

また、ビタミンEも摂り過ぎると、かえって骨粗鬆症を促すかもしれません。
つい最近、2012年3月5日に慶應大学がプレスリリースで、「ビタミンEの過剰摂取は骨粗鬆症を引きおこすことを発見」と発表しています。その一部を引用します。

正常マウスと正常ラットにヒトがサプリメントとして服用しているビタミンEに相応する量のビタミンEを添加したエサを8週間投与すると、破骨細胞による骨の吸収が亢進し、骨量が減少し、骨粗鬆症を発症しました。
以上の結果より、ビタミンEは破骨細胞を巨大化することで骨の吸収を促進すること、ビタミンEの摂取量が多いと骨粗鬆症を引き起こす可能性があることを明らかにしました。
本研究は、今まで不明であったビタミンEの骨代謝への影響を明らかにしただけでなく、ビタミンEを含む薬剤やサプリメントの過剰摂取が骨粗鬆症を引き起こす危険性があることを証明した点で画期的な発見であると考えます。

特に、ビタミンEのミックスタイプではなく、α-トコフェノールだけのサプリメントを摂取している人は注意してください。

注意

  1. 代替療法を行う医師や、健康食品を売る会社などがすすめる毛髪検査というものがあります。
    髪の毛を分析して、体に有害重金属が蓄積していないか、あるいは大切なミネラルが不足していないかをチェックすることができるとうたっています。
    しかし、ことカルシウムに関しては毛髪検査の結果を読むのに注意がいります。正常値より、カルシウムが多いとでても、それが十分に血液にカルシウムが存在していることを意味しないからです。
    カルシウムは生命維持に非常に重要なミネラルですから、それが血流中に十分に存在しなければ、ヒトは死にます。カルシウムが不足すると、パラソルモンの分泌が高まり、血液中のカルシウムの値を正常に保とうとします。そこでパラソルモンは、腸からのカルシウム吸収を増し、また腎臓からのカルシウム排出を低め、そして骨からカルシウムを奪いとり、血流中のカルシウム量を一定の範囲内におさめようとします。
    その状態が長く続くと、結果的に、カルシウムは不足しているのに、毛髪には異常に多くカルシウムが見出されるということになるのです。
    ですから、毛髪検査でカルシウムが正常範囲でなく、むしろ過剰であると出ても、それは逆にカルシウムが十分に食事から補われていないということを意味します。そこのところを読み間違えないように注意してください。
    また、正常値より低くても、当然、カルシウム不足を意味します。
    つまり、高すぎても、低すぎても、カルシウムは不足しているということを意味するのです。それと、血液検査でカルシウムの値を読むのも、ほとんどナンセンスです。なぜなら、血液中のカルシウムは、非常に厳密に正常範囲内におさまるべく、コントロールされており、ひどい骨粗鬆症の患者さんでも、血液検査ではカルシウムは正常とでてくるからです。

  2. 特に更年期以降の女性に骨粗鬆症が多いので、エストロゲン不足が骨粗鬆症に関係しているとして、薬品によるエストロゲン補充をすすめる医者がいます。これに関しては、更年期障害をお読み下さい。

  3. 医薬品による治療は、ビスホスフォネート製剤(商品名:フォサマック、ボナロン、アクトネル、ベネット、ダイドロネル、アレディア、オンクラスト、 テイロック、ビスフォナールなど)が処方されます。これらは、長年摂るとかなりの副作用がおこる可能性があります。 しかし、もし、あなたの骨粗鬆症が今、非常にひどい状態であれば、応急処置として、これらの医薬品を摂ってください。 しかし、その後は、可能なかぎり、食生活の改善や、最後に述べる運動で、進行を止められた方が良いでしょう。

  4. 骨粗鬆症に対するサプリメントは、お摂りになったからといって、何の自覚的変化もおこりません。よほどひどい骨粗鬆症でないかぎり、医薬品を服用して骨密度が回復しても、体感的には少しも変化がおこらないのと同じです。
    したがって、サプリメントをおすすめしても、三カ月も続かないのです。続かないことがわかっていて、すすめるはナンセンスそのものです。だから、あえてこのぺージには書いていなかったのです。
    しかし、真剣な読者から、健康診断で骨密度が低いと指摘されたので、適切なサプリメントはないものだろうかという電話までありましたので、ここに簡単に書いておきます。
    まず、カルシウムのサプリメントは必要ないということ。むしろ弊害の方が大きいでしょう。その代わりにマグネシウム。それと、月桃、フラックスシードオイル、ビタミンK2、B12などが基本です。また、アシタバ・カルコンには、骨形成タンパク質-2(BMP-2)を増やす働きがありますから、骨の粗鬆症予防に効果的です。
    これでおわかりのように、「更年期サプリメントセット」とよく似ています。ですから、特に女性の場合、更年期用のサプリメントに月桃、アシタバ・カルコン、ビタミンB12(5000μ)を足されたら良いのです。インターネットでも買えます。

    老化とともに胃壁の萎縮がおこり、 ビタミンB12の吸収が悪化し、50歳以上になると2割り~3割りの人にこのビタミンが不足してきます。ビタミンB12には、メコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミンと4つのタイプがあります。 その中で、最も活性の強いのがメコバラミンで、私が処方するのも、このメコバラミンです。抹消神経、微小循環系を改善し、骨に行く血流も改善します。特に糖尿病で、血糖値を下げる薬を服用している人は、必ず補ってほしいサプリメントです。
    月桃、フラックスシードオイル、ビタミンKは更年期用のものより少し多い目に摂り、さらに経済的に余裕があれば、ボロンやストロンチウムなどのサプリメントも足されたら良いでしょう。また、骨粗鬆症からくる続発性副甲状腺機能亢進症を防ぐため、ビタミンDも補ってください。(しかし、ビタミンDは脆弱性骨折とは無関係ですので、補ったからといって、骨折が減るというわけではありません。Assessment of the genetic and clinical determinants of fracture risk: genome wide association and mendelian randomisation study.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30158200

    以上に述べたサプリメントをお摂りになっても、効いているか、効いていないのか、まったくわからないのが問題で、多くの方々は、結局は続きません。しかし、サプリメントによる疾病の予防とは、本来そういうものなのです。それをよく理解されたうえで、お摂りください。

  5. カルシウムを補うのに煮干しもすすめられるのですが、昔は確かによかったでしょう。しかし、現代は酸化防止のために、ブチルヒドロキシアニソールが添加されています。 しかし、これは発がん物質なのです。ちょっとやそっと食べたからといって、どうってことはないでしょうが、カルシウムを補う目的で、毎日毎日食べるのは問題です。

運動の重要性

じっとして体を動かさなければ、骨密度はどんどん減ってきます。ぜひ、戸外に出て、太陽の光を浴びながら、運動してください。そうでなければ、いくらサプリメントを摂っても効果は半減します。
無重力の宇宙空間に数週間おかれた宇宙飛行士たちは、骨量が大幅に減少します。
骨にあるていどの負荷がかからなければ、骨は脆くなるのです。
また、特に「フラミンゴ体操」がおすすめです。インターネットで検索すると、写真や図による解説がいくつもでてきます。

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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