1)妊娠中のステロイド

よくある質問なのですが、妊娠中にステロイド軟膏を使っていいかどうかです。ステロイドを塗るのと、服用するのとは、天と地ほどの違いがあると、最初に書きました。したがって、ステロイド軟膏の使用は胎児に影響はないと思われがちです。

また、ぼくの診たかぎりでも、アトピーの妊婦さんがステロイド軟膏を使ったために、胎児に異常がおこったとか、出産に悪影響があったという報告を受けたことはありません。

しかし、島津医院アレルギ-科の島津恒敏先生、恵明会クリニックの山口典秀先生お二人による、「妊娠前-妊娠期の副腎皮質ホルモン外用は出生児の性比を減少させる」という研究では、1994年4月から1999年9月の間に両院外来を受診した成人女性アトピ-性皮膚炎患者42名を対象とされ、妊娠前および妊 娠中のステロイド軟膏の使用の有無と出生した子供の性比を調べられたところ、生まれた子供45人中、男児が3人(うち1人は死産)、女児42人という結果がでたそうです。つまり、圧倒的に女児なのです。

45人では症例が少なすぎて、これだけでははっきりしたことは結論づけることはできないとお二人の先生は慎重な態度をとられています。しかし、男児:女児=20:25ではなく、3:42という比率ですから、これはもうほとんど、確実に影響ありとみなしていいのではないでしょうか。
したがって、特に妊娠の初期(妊娠する数ヶ月前もふくむ)には、可能なかぎりステロイド軟膏の使用はひかえたほうがよさそうです。使うとしても、できるだけ弱いので、我慢すべきでしょう。

2)母親になる女性も注意

「生まれてくる子に、アトピーが遺伝しないようにするに、はどうしたらいいでしょうか?」と、これから出産しようとするアトピーの女性からよく質問を受けます。

アトピー素因は遺伝子そのものですから、防ぎようはありません。しかし、最初に述べたように、アトピーの最大の原因は、細胞膜にアラキドン酸が過剰に蓄積した状態ですから、それを防ぐようにすれば、アトピー素因の遺伝は防げなくても、アトピーが発症しやすい体質をもって生まれてこないようにすることはできます。

したがって、母親が妊娠中、ならびに授乳中に、和食を心がけるようにしてほしいものです。妊娠後期にあわてて和食に変えても遅すぎます。子供を持とうという意思があるなら、できるだけ早く、今まで述べてきた和食中心の食事指導に順ずるべきです。

近頃はやっている糖質制限ダイエットはどうでしょうかという質問がよくきます。糖質制限にもさまざまあり、一言でその良し悪しを論ずるのは難しいのですが、この食事を実行すると、どうしても肉や乳製品の摂取が増えてしまいます。したがって、すくなくともアトピーには良い結果をもたらしません。
もっとも、糖質制限をしてアトピーが改善したという意見もききますが、それは白砂糖を制限したという意味あいではないでしょうか。あるいは米に含まれている脂肪やタンパク質にまで影響を受けるまで悪化した時に、米を制限したら改善したということかもしれません「注意すべき食物(米・小麦・卵)」。しかし、これは糖質制限ダイエットとは基本的に違う考え方に由来していますので、混同しないでください。

最近、特に注目されているのが、イギリスのサウザンプトン大学のデイヴィッド・バーカー教授が提唱している「成人病胎児期発症説」です。心臓病、糖尿病、脳卒中などは胎児期の体内環境(つまり子宮の中)にその起源があることを疫学的に証明したのです。
イングランドとウェールズの心臓病マップをつくったところ、心臓病の発生率は新生児の死亡数と比例していることがはっきりと示され、そこからこの学説が生まれました。興味のある人は、「胎内で成人病は始まっている―母親の正しい食生活が子どもを未来の病気から守る」という本をお読みください。もっとも、アトピーと成人病は違いますが、おそらく胎児のときに、すでに母親の食生活や栄養状態に非常に影響されているはずです。胎生4週目から7週目に免疫に関係する器官が 形成されます。

また、国立成育医療研究センター産科の小川浩平先生たちによる、妊娠初期にしっかり野菜を食べると、出生後、子どもの喘息になるリスクが低下する可能性があるという研究結果報告がなされています。妊娠16週目までの妊婦511人に、過去2か月に食べた野菜の量を聞き、少ない順に、五つの群に分類し、その母親から生まれた子どもが2歳で、ぜんそくの症状の一つであるぜい鳴(ゼーゼーという呼吸音)の割合を調査したところ、摂取量が増えるに従ってぜい鳴のリスクも低くなる傾向にあるということなのです。

野菜を食べた量が最少だった群(1日平均78グラム)に比べ、最多だった群(同286グラム)の母親から生まれた子どもは、ぜい鳴を発症するリスクがおよそ半分に低下しました。アトピー、喘息、花粉症。これらは、非常にしばしばオーバラップしています。病因の基本にかなりの共通項があるはずです。したがって、アトピー発症を防ぐにも、「妊娠初期にしっかり野菜を食べる」ことが役に立つのではないでしょうか。

したがって、子供をつくろうと決めた段階で、しっかりと食事に気をくばり、サプリメントなどをお摂りになることを考慮してください。ただし、妊娠とわかってからは、食事やサプリメントの摂取は、産婦人科の先生のご指導に従ってください。

3)乳幼児のアトピー性皮膚炎

最近では、生後3、4ヶ月からアトピーの症状が現れる乳児が増加してきています。ステロイド軟膏に対する過度な恐怖感から、適切な治療が行われず、全身がゆでタコのように真っ赤になった皮膚の赤ちゃんも見かけます。本当に心が痛みます。

両親のうち少なくとも一方が喘息、花粉症、アトピーを持つことが多いのですが、家系的にそのような疾患がまったくない例もあります。

新築の家に引っ越したわけでもなく(シックハウス症候群ではない)、環境汚染のある場所でもなく、花粉が飛び交う地域でもなく、ペットを飼っているわけでもない。つまり、原因が全くわからないのです。

母親の食生活が大変不規則であったことが影響しているかもしれません。

しかし、乳幼児のアトピーは非常に治りが早いので、心配することはありません。

どんなにひどい状態でも、最強ランクのステロイド軟膏でなく、せいぜいベリーストロングの軟膏から塗り始めると、ほんの数日で驚くほどの改善が見られます。

そして、徐々にステロイド軟膏のランクを落とし、最終的にはステロイドが入っていない軟膏に移行します。

授乳期には、これまでに述べた食事指導を母親がしっかりと守るようにしてください。できれば母乳が最高ですが、母乳が出ない場合は特殊ミルクを使用してください。その粉ミルクにビオチンを追加すれば、より良いでしょう。

* なお、「ご相談」のページに記載がある通り、インターネットでのご相談は18歳以上に限らせていただいております。つまり、患者さんご本人がインターネットでご自身の症状を記述できることが条件です。また、小児の場合、急激に悪化したときの対応など、インターネットでは対応が難しいため、危険性があります。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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