症状は前立腺癌と似ていて、夜間頻尿、残尿感、排尿困難などです。まず、癌であるか、肥大であるかの鑑別が大切です。しかし、症状だけで鑑別するのは不可能です。必ず泌尿器科に行き、検査をしてください。前立腺肥大では命はとられませんが、癌であった場合、他の臓器に転移すると、命にかかわってきます。定期的にPSAの検査は必須です。

加齢ともに前立腺肥大症は増加し、65才以降、急激に増えます。昔は寿命が短かったため、前立腺肥大に悩まされる男性は少なかったのですが、百歳社会に近づくにつれて、これからますます増えてきそうです(もっとも、30代の前立腺肥大症の患者さんを診たことがありますが)。骨粗鬆症などと同様の、一種の「加齢病」といえるかもしれません。

泌尿器科では、普通は薬物療法から始まります。下記の三つが主流です。

  • α1ブロッカー
  • 5α還元酵素阻害剤
  • PDE5阻害薬

それで思わしい結果が得られない場合、手術となります。

  • 経尿道的前立腺切除術(TUR-P: Transurethral Resection of Prostate)
  • ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP: Holmiumu Laser Enucleation of Prostate)
  • 光選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP: photoselective vaporization of the Prostate

以上、三つのうち、ホルミウムレーザー前立腺核出術が日本ではいちばん多く行われているようです。しかし、患者さんにとって最も適切な手術は主治医と相談して決めてください。
術後のED、尿失禁などの発生率は日増しに少なくなってきていますが、わずかな確率でEDや尿失禁が後遺症としておこることは否定できません。また、逆行性射精(精子が膀胱に射精されてしまう状態)がおこることがあり、その場合、不妊の原因になります。したがって、これから子供をつくる予定のある人は、手術は可能なかぎり避け、先にのばしたいものです。

下記に前立腺肥大に効果のあるサプリメントを列記します。これらをお摂りになる場合は、必ず主治医と相談してください。

ノコギリヤシ(Saw palmetto)

北アメリカ原産の背の低いヤシの一種で、葉がのこぎりのようにギザギザしているためにこう呼ばれています。英語ではSaw palmetto で、この 「Saw」は、見る「See」の過去形の「Saw(見た)」ではなく、「ノコギリ」という意味です。

前立腺肥大の元凶の一つは、ジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)とされています。このDHTが前立腺の組織を過剰に増殖させ、前立腺肥大をおこすのです。前立腺には5-α-reductaseという酵素があり、これがテストステロンをDHTに変換します。

テストステロン自体が悪いのではありません。もしテストステロンが原因であれば、テストステロンの血中レベルが非常に高い若い時期に、前立腺肥大がほとんど起こらないはずがないのです。5-α-reductaseによって、テストステロンが変換されてできるジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)が災いしているのです。この5-α-reductaseの作用を阻害する働きが、ノコギリヤシの実のエキスにあるのです。

また、精巣の間質細胞から生産される繊維芽細胞増殖因子(b-FGF)も、前立腺肥大を促しますが、ノコギリヤシの実のエキスはこの因子の産生を抑制します。
さらに、シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼという二つの酵素の作用をブロックする作用もあり、それら二つの酵素によって生産される炎症性のエイコサノイドの働きを減少させ、前立腺炎、尿道炎、膀胱炎も改善させてくれます。
Google Scholar(グーグル・スカラー) (https://scholar.google.co.jp/)で、「saw palmetto prostate (ノコギリヤシ 前立腺)」と検索されると、2019 年だけで、100以上の論文がでてきます。つまり、それほど研究しつくされている、確かに効果のあるサプリメントなのです。
その一例:Chapter 7 – Phytotherapy in Benign Prostatic Hyperplasia

<参考リンク> https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B978012811397400007X

ペポカボチャ種子

これにも、ノコギリヤシの実のエキスと同様に5-α-reductase の阻害作用があり、前立腺肥大を防いでくれます。また、アロマターゼ阻害作用もあります。アロマターゼはテストステロンを17-β-Estradiol (E2)というエストロゲンに代謝します。これは、エストロゲンの中で最も強い作用をもっており、前立腺組織を肥厚させ、肥大化させます。また、特にペポカボチャ種子油には、膀胱の排尿反射に関係するアデノシンA1受容体を介して膀胱平滑筋を弛緩させ畜尿量を増やします。その結果、頻尿、尿意亢進、尿意切迫感などを軽減してくれます。

イタリア、ドイツなど特にヨーロッパでその研究がさかんです。 

The role of Cucurbita pepo in the management of patients affected by lower urinary tract symptoms due to benign prostatic hyperplasia: A narrative review

<参考リンク> https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27377091

私のクリニックでは、環境に非常にこだわりの強いヨーロッパのオーストリア、そこの風光明媚なシュタイアマルク原産のカボチャの種子油をつかっています。シュタイアマルクはワインでも有名です。
かわったところでは、ナイジェリアの大学でも研究されています。
Inhibition of the experimental induction of benign prostatic hyperplasia: a possible role for fluted pumpkin (Telfairia occidentalis Hook f.) seeds.

<参考リンク> https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21709398

パイゲウム

英語では一般的にPygeumと表記されますので、日本ではピジウム、あるいはピジュームとも呼ばれています。学名はPrunus africanaで、アフリカの山林に生育する高さ30~40mに達する常緑樹です。アフリカでは伝統的にこの木の樹皮から薬をつくり、解熱、胃痛、排尿障害、マラリアなどに使われてきました。近年、その前立腺肥大、前立腺癌に対する効果に注目され、前立腺機能強化のサプリメントとして日本でも見かけるようになりました。ヨーロッパでは、Tadenanという商品名で売られています。

その作用機序はパイゲウムに含まれている、N-N-ButylbenzenesulfonamideとAtraric Acidの二つの物質が、前立腺のアンドロゲンレセプターを不活化することによります。また、パイゲウムには前立腺の筋線維芽細胞の増殖を止める作用がありますが、それがどのようなメカニズムによるかまだ十分に解明されていません。

また、パイゲウムは5-LOX(5-lipoxygenase)という酵素の活性を阻害します。この酵素は前立腺がんの増殖を刺激します。そして、この酵素によって、アラキドン酸は5-HETE(5-hydroxyeicosatetraenoic acid)という脂肪酸に変換されます。そして、この脂肪酸はがん細胞のアポトーシス(自然死)を阻害するのです。前立腺がんの組織には正常な前立腺組織の6倍もの5-LOXが存在し、5-HETEは2.2倍も多く存在するのです。
Biological effect of human serum collected before and after oral intake of Pygeum africanum on various benign prostate cell cultures

<参考リンク> https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3720175/

月桃(JIPANG Ginger®)

月桃(JIPANG Ginger)

このサプリメントの効能は、https://drmakise.com/ のトップページの上のサイト内検索のボックスに「月桃」と入れていただければ、多くの個所に説明が出てきます。牧瀬クリニックの基本処方です。
月桃には非常に多くのポリフェノールが含まれていますが、その中でも、フェルラ酸が際立っています。米ヌカにも多く含まれていますが、月桃にはその約2倍も含まれています。このフェルラ酸は、下垂体前葉から分泌されるホルモンであるプロラクチンの血中レベルを下げます。

プロラクチンは前立腺のテストステロンの取り込みを促しますので、プロラクチンのレベルが下がると、それだけテストステロンが前立腺に取り込まれなくなります。テストステロンのレベルが下がると、その分、ジハイドロテストステロン(DHT)も減り、結果的に前立腺肥大が改善されるのです。
月桃を飲んだが、まったく尿の出が改善されなかったというクレームが、時々あります。
しかし、よくきいてみると、日に2カプセル服用したという回答です。ノコギリヤシ、ペポカボチャ種子、イラクサなどを足さないで、月桃だけで改善させるには、下記の量が必要です。
まず、最初の1週間は8カプセル/日(朝2、昼2、晩4カプセル。あるいは朝4カプセル、晩4カプセル)。2週目は6カプセル/日(朝3、晩3カプセル)。この時点で尿の出が改善されたと実感できるものです。3週目からは、4カプセル/日(朝2、夜2カプセル)。

エピロビウム

学名はChamerion angustifoliumで、和名はヤナギランですが、サプリメントとして使われるときは、日本でも一般的にエピロビウムとよばれています。北半球の温帯・寒冷地に広く分布している多年生の植物です。
ロシアでは「イワン・チャイ」という伝統的なお茶の材料として使われてきました。また、アメリカやアラスカの先住民にも長い間、利用されています。特に中央ヨーロッパでは昔から前立腺や膀胱の問ヨーロッパでは昔から前立腺題に対処するための民間療法として広く普及していました。オーストリアの著明なハーバリスト、マリア・トレーベン(1907~1991)によってさらにその有効性が認められました。

またローマ・ラ・サピエンツァ大学(1303年に設立された、いわゆるローマ大学)の研究者たちによって効能が証明されています。
Anti-proliferative effect on a prostatic epithelial cell line (PZ-HPV-7) by Epilobium angustifolium L.

<参考リンク> https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014827X01010679
その作用機序はエピロビウムの2種類のタンニンの、5-α-reductase 阻害作用とアロマターゼ阻害作用によるものです。

またローマ・ラ・サピエンツァ大学(1303年に設立された、いわゆるローマ大学)の研究者たちによって効能が証明されています。
Anti-proliferative effect on a prostatic epithelial cell line (PZ-HPV-7) by Epilobium angustifolium L.

<参考リンク> https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014827X01010679
その作用機序はエピロビウムの2種類のタンニンの、5-α-reductase 阻害作用とアロマターゼ阻害作用によるものです。

イラクサ

前立腺対策には、この植物の根が使われます(葉のほうはアレルギー対策です)。
加齢とともにテストステロンが減少し、エストロゲンが男性でも増えてきます。これはアロマターゼという酵素による作用です。エストロゲンは前立腺組織を肥厚させ、肥大化をきたします。イラクサの根は、その過剰なエストロゲンが前立腺組織の細胞にくっつかないようにしてくれるのです。

ビタミンK2

昔から、そして、地域をたがわず、いつでもどこでも、前立腺肥大は多くの男性を悩ましてきました。何度も繰り返しますが、ジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)が元凶の一つであることは間違いないのですが、なぜそれが過剰になるかの基本的原因が不明でした。しかし、その原因がようやくわかりだしてきたのです。それは精索静脈瘤です。精索静脈瘤とは、睾丸上部に流れる精索静脈が異常に肥大した状態をいいます。正常な場合、睾丸で生産されたテストステロンは精索静脈に入り、上向し下大静脈に流入し、そこで100倍に薄まり、しかもその98%は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)に結合します。

しかし、精索静脈瘤がある場合、前立腺の近くの静脈には130倍ものフリーなテストステロンが流れることになります。したがって、その分、ジハイドロテストステロンも多くできてしまうというわけです。
では、精索静脈瘤の原因は? 静脈壁の中膜の平滑筋の肥厚と石灰化です。これを防ぐにはビタミンK2が大切なのです。また、加齢とともに下大静脈の弁が老化し石灰化も増してくることも関係してきます。
つまり、ビタミンK2の補給は、前立腺肥大の根治療法ともいえるのです。高血圧対策にもビタミンK2が必要ですので、そのページにも詳しく説明しています。
また、次のページも参考にしてください。
Vitamin K: the missing link to prostate health.

<参考リンク> https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25613567
ちなみに、男性不妊の最も大きな原因が、この精索静脈瘤です。第二子ができない原因の78%は精索静脈瘤です。
注意ワルファリン(商品名:ワーファリン)などを服用している人は、このビタミンは摂らないでください。

亜鉛

前立腺には他の組織とくらべてたくさんの亜鉛が存在します。亜鉛はジハイドロテストステロンの働きを抑制します。
しかし、亜鉛を長期間、つまり1年以上、毎日お摂りになるのはひかえたほうが安全です。普通の血液検査では亜鉛の量を測定しません。しかし、ALP(アルカリホスファターゼ)という酵素は、一般の健診でAST、ALTなどと一緒に必ず調べられます。多くは、正常値より高いときに注意が促され、健診のあと、肝臓や胆嚢の精密検査を要するというようなコメントがついてきます。

ところが、これが低い値を示すときは、けっこうないがしろにされやすいのです。と、いいますのは、ALPが正常よりも低い値を示すのは、「遺伝性低ALP血症」という10万人に一人ほどしか起こらない病気と、「甲状腺機能低下」や、亜鉛かマグネシウムが少ない場合だからです。過去の健診のデータを見てください。もし、ALPが正常値以下であった場合、亜鉛不足も疑ってください。
特にアルコール依存症の場合、亜鉛は欠乏します。また、降圧剤のループ降圧利尿剤、サイアザイド系降圧利尿剤、カリウム保持性降圧剤などは亜鉛欠乏をおこすことがありますから、注意してください。

ビタミンB6

このビタミンは亜鉛とともに働き、テストステロンがジハイドロテストステロン(DHT)に変換されるのを防ぎます。

メラトニン

メラトニンは、脳のほぼ真ん中に位置する第三脳室の上壁最後部にある松果体という器官から分泌されるホルモンです(最近の研究によると人体のあらゆる器官でもつくられていることがわかってきました。特に腸では、松果体でよりも500倍も多く生産されています)。 
メラトニンは一時、若返りのホルモンとしてブームになったことがあります。また、時差ぼけ対策、あるいは睡眠薬として摂られることが多いのですが、最近は抗酸化剤・抗炎症剤としての作用にも注目されています。

さらに、膀胱・前立腺の働きにも密接に関与しているのです。膀胱の容量を用量依存的に増やし、夜間の尿生産量を少なくするため、夜間頻尿を軽減させます。
メラトニンは6~7才をピークとして、以後年令とともに毎年2%ずつ少なくなっていきます。したがって30代の半ばで、ほぼ半分ほどの生産量になってしまいます。
メラトニンは製品によって、1錠が0.75mg, 1mg, 2.5mg, 3mg, 5mg, 10mg, 20mgと7種類ほどあります。また、リキッドタイプや、他のサプリメントとの合剤もあります。普通、私が処方するのは、1錠が1mgのメラトニンです。なぜなら、症状に応じて、簡単に増減できるからです。朝まで尿意に悩まされずに眠ることができる量は個人差があります。まず、1錠、就寝前に服用してください。それで不十分だと感じられた場合、1錠ずつ増やしてください。
前立腺肥大そのものが縮小していくと、メラトニンは自然と必要でなくなります。しかし、若返りのホルモンとして、毎晩0.5 ~1mgお摂りになってもかまいません。0.5mgの場合、1mgのメラトニンのカプセルを外して粉末を取り出し、その半分を摂るようにしてください。
メラトニンの化学名はN-acetyl-5-methoxytryptamine(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)です。アメリカのサプリメントでメラトニンという言葉を使わず、この長ったらしい化学名を使って、さも新しい物質であるかのように宣伝しているのを見かけたことがあります。注意してください。詐欺ではありませんが、詐欺に近い商法です。しかも、医者がそういう書き方をして、自分のサプリメントを売ろうとしているのには驚きました。

瀉血

これはサプリメントではありませんが、前立腺肥大の予防・治療に非常に効果があります。最近、瀉血の価値が認められ始め、かなりのクリニックが瀉血治療を行うようになってきました(特殊なケース以外は、健康保険はききません)。しかし、ペニスや会陰部からの瀉血は日本ではまだ行われていないようです。

膀胱の筋肉のトレーニング

トイレで排尿するときに、3~5秒、排尿を我慢してください。これは、膀胱の“筋トレ”になり、頻尿、尿意亢進、尿意切迫感の改善につながります。数秒のわずかな積み重ねは、功を奏します。

精力剤には注意

たとえば、カトゥアバ、イカリソウ、トリビュラス・テレストリス、ムイラプアマ、トンカットアリなどの、医薬品ではない精力剤を、無思慮に長期にわたり摂っていると、前立腺肥大をおこす危険があります。ましてや、すでに前立腺肥大の兆候がある場合は、絶対に避けるべきです。これらは、必要に応じて、短期間摂るべきものです。

全身の健康

肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、動脈硬化は前立腺肥大を悪化させます。また、座りっぱなしの生活もいけません。つまり、一般的な健康管理に注意をはらってください。

リコピンについて

昔は私もこのカロテノイドをすすめていたことがあります。しかし、サプリメントとして濃縮されたリコピンはすすめられません。どんなカロテノイドでもサプリメとして、大量に摂ると、ちょうどベータカロテンが喫煙者の肺癌のリスクを高めたように、かえって悪影響がでる恐れがあるからです。それに、リコピンが効果を発揮するには、トマトの中に含まれている状態(つまり、他のさまざまな物質とともに)であり、単独でないという研究があるからです。

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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