1)欧米の皮膚科で一番問題の乾癬

湿疹が大きくなれば、簡単に診断がつきますが、初期のごく小さなときは、ときどき誤診されます。 特に頭髪の生え際、お尻の割れ目、両肘といった箇所にでき始めやすいのです。子供にはほとんどありませんが、最近は小学生にも発症する例がでてきました。 男女とも同じ発生率ですが、国によっては男性が多いところもあります。たとえば日本では、男性の方がやや多い罹患率を示しています。
乾癬は、日本では皮膚科外来患者さんの100人に2~3人の割合(一般人口1000人中2~3人)の罹患率ですが、肉食をする欧米では、一般人口100人に2~3人の割合です。 そうです、人口100人に2~3人とはたいへんな数なのです。
したがって欧米の皮膚科で一番問題なのはこの乾癬です。 日本で乾癬といっても、多くの人は理解しませんが、むこうでは乾癬といえば、 ちょうど日本のアトピーと同じようにだれでもわかってくれます。ちなみに英語でも、ドイツ語でも、フランス語でも、スウェーデン語でも、Psoriasis。ルーマニア語ではPsoriazis、ロシア語ではПсориаз(プソリアーズと発音)、 ヒンディー語ではसोरायसिस(ソライシスと発音)、テルグ語ではసోరియాసిస్(ソリアシスと発音。ドラヴィダ語族に属する言語で、インド南東部のアーンドラ・プラデーシュ州およびテランガーナ州の公用語)。世界中では少な くとも1憶人が罹患していると推定されています。年々増えています。
乾癬の症状は紫外線があたる顔にはほとんどでません。髪の生え際に出ることはよくあるのですが(したがって脂漏性皮膚炎とときどき誤診されることがあります)、うまく隠せることもあり、またその他の部位は衣服で覆われますので、外見からではわかりません。しかし、非常に多くの人がこの皮膚病を患っているのです。

2)乾癬の原因

β-遮断薬(高血圧、不整脈、心筋梗塞など、おもに循環器疾患によく用いられます)、抗マラリア薬、あるいはリチウム製剤などを服用したあとに、おこることもあります。喫煙したからといって、乾癬を発症させませんが、悪化要因の一つであることは間違いないです。また、大量の飲酒もそうです。私のアトピー患者さんですが、最初は普通のアトピー性皮膚炎だったのですが、どうしてもお酒がやめられず、肝機能の数値が悪くなるほどの飲酒癖があり、三年後には尋常性乾癬を発症させてしまった方がおられます。アトピー性皮膚炎と乾癬はまったく別の病気ですが、この人のように、たまに併発することがあります。

しかし、多くの場合ある日突然、これといった思い当たる理由なく発症してきます。 しかし、詳しく問診すると、何か大きなストレスがかかる体験をしたあとに、気がついてみたら発症していたということが結構あります。
乾癬は多遺伝子性疾患であり、その発症には複数の遺伝子が関与しています。

3)自然な改善策

明治以前、文明開化の足音が聞こえる前は、日本人には乾癬なる病気はほとんど存在していなかったようです。なぜなら肉食をしなかったからです。しかし、豚をよく食べる中国人には、乾癬らしき皮膚病が昔から存在していたようで、漢方薬にもその処方があります。
したがって、乾癬を改善するには、可能なかぎり肉・乳製品(チーズも含む)をひかえると良いという治療が考えられ、また、現実にそうなのです。アトピー性皮膚炎と同様に、乾癬にも菜食主義と断食が効果があります。数多くの乾癬患者さんを治療してきた私の経験だけからこう書いているのではなく、エビデンスがあるのです。英文ですが、下記のサイトをお読みください。

<参考リンク>:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2133.2005.06781.x/full(英語)

<参考リンク>:https://www.everydayhealth.com/psoriasis/diet/a-plant-based-diet-to-ease-psoriasis/(英語)

3年間、いっさい肉食を断つとかなり改善します。しかも、あとで述べる生物製剤と比べれば、極めて安上がりな方法です。しかし、これを実行するのは非常に難しいし、即効性はありません。

4)免疫抑制剤、新薬、塗り薬

症状がひどくなると、免疫抑制剤(シクロスポリン、メトトレキセート)やビタミンAの誘導体であるエトレチナート(商品名:チガソン 催奇形性があるので、これを処方されるときは同意書まで要求されます)といった、副作用に十分注意を払わなければならない薬が処方されます。
また最近はPDE4(ピーディーイーフォー)の働きを抑えることで、身体の中の乱れた免疫バランスを整え、炎症を抑えて、乾癬の症状を改善させる新薬アプレミラスト(製品名 オテズラ)を処方されるかもしれません。
しかしオテズラ錠も吐き気や下痢、頭痛などの副作用がみられることがありますので、医師によく相談をしたうえで使用しなければなりません。
軟膏はもちろんステロイドや、ビタミンD3の誘導体であるカルシポトリオール(商品名:ドボネックス)、タカルシトール(商品名:ボンアルファ)などです。 またPUVAなどの紫外線療法も試みられます。

治療はむつかしいのが現状ですが、命はとりませんし、痛みもないのが救いです。約7割の患者さんには痒みをともないますが、アトピー性皮膚炎や結節性痒疹ほどのひどい痒みではありません。しかし、関節炎などを伴う場合は注意してください。そういうときは胸部レントゲンも撮ってもらいましょう。 まれですが、肺線維症を合併することがあるからです。特に爪、お尻の割れ目、頭皮に病状が出る人は乾癬性関節炎をおこしやすい傾向があり、関節痛の気配を感じた場合は、すぐにメトトレキサートなどの免疫抑制剤を服用して、関節の変形を防ぐ必要があります。

また、若い人の重症な乾癬患者さんは心筋梗塞などの合併症をおこすことがありますから、十分に注意が必要です。特に肥満の人は10kgほどは体重を落とすことがすすめられます。

5)生物学的製剤

最近は、免疫学的な研究が非常に進んできており、TNF-α(腫瘍壊死因子α)、IL-12(インターロイキン12)、IL-23、IL-17、などのサイトカインを抑制する生物学的製剤が使われるようになりました。アダリムマブ(ヒュミラ)やインフリキシマブ(レミケード)はTNF-αを、ウステキヌマブ(ステラーラ)はIL-12およびIL-23、セクキヌマブ(コセンティクス)はIL-17、を標的にして乾癬を改善します。 しかし、これらの生物学的製剤は、人によっては非常にきつい副作用が出ることがあります。また、特に脛(すね)にできた病変部位や爪の変形は生物製剤では治りにくいです。 たとえば、最近よく使われだしたウステキヌマブ(ステラーラ)の添付文書の最初に赤字で下記の警告が書かれています。

【警 告】

  1. 本剤はIL-12/23の作用を選択的に抑制する薬剤である ため、感染のリスクを増大させる可能性があり、また 結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可 能性がある。また、本剤との関連性は明らかではない が、悪性腫瘍の発現が報告されている。本剤が疾病を 完治させる薬剤でないことも含め、これらの情報を患 者に十分説明し、患者が理解したことを確認した上で、 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に のみ投与すること。また、本剤は専門医が使用し、本 剤投与後に副作用が発現した場合には、主治医に連絡 するよう患者に注意を与えること。
  2. 重篤な感染症 ウイルス、細菌及び真菌による重篤な感染症が報告さ れているため、十分な観察を行うなど感染症の発症に 注意すること。
  3. 本剤の治療を開始する前に、紫外線療法を含む既存の 全身療法(生物製剤を除く)の適用を十分に勘案すること。乾癬の治療経験を持つ医師と結核等の感染症につ いて診療経験を有する内科等の医師が十分な連携をとり使用すること。

お読みになれば、そうやすやすとは使われるべき薬ではないことは、おわかりになると思います。 しかも、健康保険をきかしても高額です。さらに、「本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含め」と明記されているように、症状を抑えている対症療法なのです。 しかし、効く人には非常に良く効き、軟膏や紫外線療法もいらず、食事制限も不必要で、ものの見事に皮膚がきれいになります。日常生活も簡単です。まるで、体の中から完治したような錯覚に陥ります。 しかし、生涯にわたって、生物学的製剤に頼るのは、かなり危険なことではないでしょうか。
私のところでは、これら生物学的製剤をすすめたことは、一度もありません。
肉食を止め(獣肉を食べなかった100年前の日本人にはこの病気はほとんどなかったのです)、適切なサプリメント、自然な改善策を患者さんと話し合いながら治療するようにしています。

6)乾癬のための軟膏と効果的なサプリメント

軟膏の最大の特徴は5種類の石の微粉末(ミネラルパウダー)、ラノリンが入っているPS軟膏を使用します。
しかし、いかなる軟膏にせよ、対症療法にすぎません。軟膏によって乾癬が根治すると考えていただいては困ります。
また、痒みや鱗屑のない方は、軟膏が不要な場合もあります。

乾癬に効果的なサプリメントに関してですが、サプリメントは免疫抑制剤でもなく生物学的製剤でもありませんから、摂ってすぐに効果が現れるというようなものではありません。かなり重症な例では、PS系の軟膏を十分につかって、見かけ上、半年で6割ほどの治癒。1年で8割ほど。体の中から、きれいに改善するには、やはり2年はかかります。 しかし、免疫抑制剤や生物学的製剤と比較をして、これらのサプリメントは非常にカラダにやさしいという事は間違いありません。

膿胞性乾癬の場合、顆粒球吸着療法が効果があります。副作用は、せいぜい頭痛・嘔気・めまい等の一過性のものです。インターネットで検索され、それを行っている病院を探してください。すぐに見つかります。健康保険も使えます。生物学的製剤を使う前にためすべきです。

一般的に下記を試されることをおすすめしますが、現在服用されている薬品、患われている年数、乾癬による合併症、皮膚の状態などによって処方内容、摂取量もかなり違ってきます。 ご自身の症状に対して適切なサプリメントや摂取量を知りたい方はご相談ください。相談フォームへ

*セレン

解毒作用に優れています。アトピー性皮膚炎の場合の2倍量が必要です。

*マグネシウム

解毒作用に優れています。アトピー性皮膚炎の場合の2倍量が必要です。

*ビオチン

ビオチンは掌蹠膿疱症の治療で有名になりましたが、乾癬の治療にも必ず必要です。 このビタミンBの一種はビタミンEやビタミンCなどと比べて、あまり研究されていませんが、きわめて重要なビタミンで、脳・神経系の病気にも必須です。 脳と皮膚は密接な関係にありますから、当然なのですが。(アメリカの皮膚科では掌蹠膿疱症は乾癬の一種に分類されています)。
摂取量に注意してください。1千500マイクログラムや2千マイクログラムでなく、1万5000マイクログラム(15ミリグラム)や2万マイクログラム(20ミリグラム)です。 1カプセル5000マイクログラム入りのものが市販されていますが、それを3カプセル~4カプセルです。 

インターネットなどで検索すると、ビオチン療法の解説に、ビタミンCと一緒に摂るようにと、よく書かれていますが、一緒に摂る必要はありません。 むしろ、ビタミンCの過剰摂取は乾癬には決して良くないのです。
もしあなたの乾癬が滴状乾癬である場合は、この ビオチンがなおさら必要です。

*フラックスシードオイル

乾癬は炎症性の皮膚病です。その炎症をコントロールするのがエイコサノイドという物質です。
そして、エイコサノイドの産生をコントロールしているのが、オメガ3系統(ω3)とオメガ6系統(ω6)の不飽和脂肪酸です。炎症を抑える良性のエイコサノイドは、オメガ3不飽和脂肪酸から代謝されてきます。オメガ3不飽和脂肪酸の代表であるα-リノレン酸はフラックスシードオイルやエゴマオイルに多く含まれています。

*抗コレステロール剤(スタチン系薬剤)
コレステロールが高く、抗コレステロール剤のスタチン系薬剤(商品名メバロチン、リポバス、ローコール、リピトール、リバロなど) を服用し始めて、長年患ってきた乾癬が、まるで魔法のように消えてしまったという患者さんが時々おられます。 皮膚科ではこの現象にほとんど注目されていないので、乾癬で皮膚科を受診しても、抗コレステロール剤を処方されることはあり得ません。 また、乾癬に抗コレステロール剤は健康保険も適用されませんから、一般の皮膚科では、絶対と言って良いほど処方されません。 しかし乾癬と「油」は非常に密接な関係があります。
コレステロール、中性脂肪、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸などが複雑にからみあってどのように乾癬に影響を与えているか、正直なところ、私もわかりません。 しかし、油は油で対処すると、かなり効果があるのです。

*銅

この銅のサプリメントは、けっこうないがしろにされるのですが、経験的に乾癬治療には重要です。しかも非常に安いサプリメントです。ずっと摂り続けず、3ヵ月摂れば、1ヵ月休むというようなサイクルで摂ってください。

*亜鉛

亜鉛は皮膚の再生に必須です。こと皮膚に関してはコラーゲンの再生に重要な役割を果たします。インターネットで簡単に入手できますし、最近はコンビにでも売っています。安価ですので是非、補ってほしいミネラルです。その際、Zinc Monomethionate か、Zinc Picolinateの形が吸収率が高いので、それらを選んでください(Zincは英語で亜鉛という意味です)。
ただ、亜鉛は長期にわたり摂りすぎると、副作用があらわれる可能性が否定できないので、慎重に摂ってください。上記の銅のように、休止期間をつくって、3~4ヵ月中の1ヵ月間は摂らないほうが良いでしょう。

また、肝炎を患った人や、肝炎ウイルスのキャリアーは摂らないほうが無難です。サプリメント処方を希望される人は、前もって、必ずその旨を医者に伝えておいて下さい。亜鉛の血中の値は簡単に調べられますが、普通の会社の健診で、亜鉛の血中値は調べません。しかし、ALP(アルカリフォスファターゼ)は頻繁に調べられています。もし、ALPが基準値より低ければ、亜鉛やマグネシウムの血中濃度が低いかもしれません。念のために調べてもらってください。

*LPS

LPSはリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide)の略で、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分です。ここで、サプリメントとして使うのは、小麦に共生するグラム陰性細菌であるパントエア・アグロメランスを発酵培養し、発酵培養液から糖脂質を熱水抽出し、その後菌体成分、残渣を除去・精製してつくられた植物発酵糖脂質素材です。このサプリメントはマクロファージを活性化させるのです。

マクロファージは白血球の一種である単球から分化されてできてきます。脊椎動物、無脊椎動物、ほとんどすべての動物に存在する、原初的な免疫担当細胞です。細菌、ウイルス、死んだ細胞等の異物を取り込みます。

ヒトなど高等生物の免疫システムには2種類あります。一つは自然免疫で、もう一つは獲得免疫です。マクロファージは自然免疫において主役的役割をはたします。マクロファージは、異物を取り込み、酵素によって分解処理を行います。取り込まれる異物は病原体だけにとどまりません。AGEs(最終糖化産物:糖尿病のときに多量に発生します)、変異したタンパク質、PM2.5(微小粒子状物質)など無機物、そして酸化された悪玉コレステロールLDLも、貪食するのです。

*ビオスリー(プロバイオティクス)

まず、腸は最大の免疫器官だということを認識してください。
小腸の内側には小さな毛のような絨毛とよばれる突起が密集していますが、その間隙にパッチワークのようにパエイル板という器官が点在します。パイエル板はリンパ小節の集合体で、いわば免疫系をコントロールする一つの司令塔のような役割を果たしています。
また、小腸の上皮には腸管固有リンパ球が、上皮細胞5~6個につき1個ほど存在し、その数はすべての免疫系細胞の60%にのぼるといわれています。

その他、粘膜固有層の粘膜固有リンパ球、そしてこれらの組織の下に、クリプトパッチと呼ばれる未分化リンパ球が集積する小リンパ組織が最近日本人によって発見されました。 ここでは腸管独特のT細胞がつくられています。

また腸は第二の脳とよばれるくらい、脳と密接に関係があります。長さは日本人の大人の場合6~7メートルもあり、広げるとテニスコート1面分の面積があります。そこに存在する神経細胞の数は1億個で、脳以外に散在する神経細胞の約50%は腸に集まっているのです。 つまり、脳は腸とともに、精神的ストレス、情緒、睡眠などを共同でコントロールしているわけです。

乾癬は免疫系の異常であり、かつストレスによって悪化する病気ですから、腸を整えることは非常に重要です。
しかし、ビオスリーを含め、他のどんなプロバイオティクスでも、腸の働きが良くなりすぎ、大腸で便の水分が吸収されすぎ、便が固くなり、かえって便秘がひどくなることがあります。40人~50人に一人ほど、そういう方がおられます。そのときは、種類を変えて、根気よくご自分の腸内細菌のフローラに合ったプロバイオティクスを探すしかありません。腸を整えるのは非常に大切ですから。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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