以上のように書いていくと、減塩を自らまじめに実行し、減塩を高血圧の治療の一環としてすすめておられる医療関係の方々から、お前は減塩をけなす反社会的分子だと誤解されそうです。しかし、誤解しないでいただきたいのは、私は食塩制限が無意味であると書いているのではありません。
90%近くの医者本人が実行できない減塩食を、多忙な患者さんにすすめることが現

実離れしていると言っているのであって、減塩そのものは、当然、強くすすめられます。しかし、私たちの社会そのものが、消費者の味覚にこびへつらう「増塩社会」になってしまっており、「食塩無添加」をうたう一部の健康食品以外は、売上をうながすために、食塩のみならず、あらゆる化学調味料やからだによくない油をまぎれこませているのが現状です。
つまり、減塩は「社会政策」としてとらえることによって、実現できるのです。禁煙とほぼ同じことです。最近、ほとんどのレストランが全席禁煙あるいは、喫煙席をしきっています。タバコにはどんどん税金をかけ高くし、可能なかぎり、人々には行き渡らないような仕組みを社会がつくりだしてきています。
喫煙は恥ずべき習慣であるという意識がようやく定着してきているのです。ニコチン中毒になった体は、本人の意思で改善するのは難しく、「社会の介入」が必要なのです。
減塩にも社会的介入が必須です。食塩中毒で麻痺してしまった舌は、一種の強制力をかけなければ、矯正できないのです。そうでなければ、「ナトリウムの摂取は日に3グラム以下」という、どこかの大学教授の非現実的な、カラ念仏以下のお題目になってしまいます。この指導は高血圧専門誌に発表するときに使うものであり、患者さんを相手にするときは、まったく無意味です。

社会が行う減塩策の一つとして、レストランには減塩食席をもうけ、減塩食席の割合に比例して、売り上げに対する税金を低くする。つまり、減塩コーナーの推進です。また、学校給食では、徹底した減塩を指導する。スナック菓子の食塩の配合量の規制を行う。タバコの税金を高くするのであれば、食塩の税金も高くする。
ちなみに、日本ではマールボロ1箱は520円ですが、アメリカでは748円、ドイツでは814円、イギリスでは1402円、オーストラリアでは何と2296円!!(2018年。現地通貨を円に換算)。食塩もこれほど高価になってくると、いやおうなしに、減塩せざるをえなくなってしまいます。
大阪の国立循環器病研究センターが推進している「かるしお認定制度」などは素晴らしいもので、食にたずさわる、数多くの企業に参加していただきたいものです。

しかし、一つ問題があります。食塩に対する感受性が人によって違っており、感受性の無い人の血圧は、食塩の摂取量に影響を受けません。タバコのニコチンはほとんどの人を中毒にする可能性があります。また、喫煙しない人たちも受動喫煙させ、巻き込んでしまいます。しかし、食塩はそうではありません。つまり、塩っけのないまずい食事をとったからといって、血圧が下がらない人もいるのです。減塩食は、この人たちにとっては、生活の質の低下になります。そこのところをとわきまえなければ、下手をすると、きびしい減塩条例を施行する「減塩大国日本」は、「大日本健康帝国」という健康のファッショ化への道筋になる危険性があるのです。

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