男は前立腺がんで死ぬのではなく、前立腺がんと共に死ぬ」、といわれています。この意味は、前立腺のがんは通常、非常にゆっくりと大きくなり、尿道を圧迫し排尿困難をおこすまで、あるいは骨などに転移するまでに、多くの男性は他の病気か老衰で死んでしまうということです。80歳を過ぎた男性を解剖してみると、5割の男性は前立腺がんをすでにもっているのです。国立がん研究センターによると前立腺がんの5年生存率は98.6%です。つまり、前立腺がんは、最もおだやかながんなのです。安心してください。
したがって、がんが発見された時点で特につらい症状もなく、転移もおこっていなければ、治療しないで経過を観察するという選択があります。そして、悪化した段階で治療を始めよう、悪化しないこともありえるので、ということなのです。
これを英語では、「watchful waiting」(待機療法あるいはPSA監視療法)といいます。つまり、「注意深い待ち」というわけです。定期的にPSA採血検査を行い、がんが悪化しているかいないかをチェックします。ただし、これが適応されるのは、生検でのGleason score 6以下、陽性コア2本以下で、前立腺特異抗原PSA10ng/mL以下、臨床病期T2 以下の場合です(日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン2010年増補版」)。専門的ですから、詳しいことは泌尿器科で診察を受けたときに主治医と相談してください。しかし、日本ではこの監視療法(待機療法)を治療の一つの選択肢とする 泌尿器科医は7割程度で、3割の泌尿器科医はまったくこの療法を行っていません。したがって、特にPSAが4~10ng/mLのグレーゾーンの場合、もし、主治医がこの療法について言及しなければ、患者さんの方から、この治療が適応でないかどうか聞いてください。PSAが4~10ng/mLの場合、6~7割が前立腺肥大症で、3~4割が前立腺がんです。
下記に述べるサプリメントは、前立腺がんの予防、あるいは監視療法(待機療法)中の人たちのためのものです。決して進行した前立腺がんのためのサプリメントではありません。最近は前立腺がんの治療も非常に進んできており、現代医学による化学療法、ホルモン療法、精巧な手術用ロボット「ダ・ヴィンチ」、小線源埋め込み、重粒子(炭素イオン)線療法などによってほとんど完治でき、最初に書きましたように、5年生存率は98.6%なのです。もし、私が前立腺がんになったすると、まず監視療法(待機療法)を行いながらサプリメントを摂り、3ヵ月に一度はPSAを検査し、それがじりじりと上がってくるようであれば、転移がおこらない前に、重粒子線療法を受けます。幸い、私のクリニックからタクシーで10分のところに「大阪重粒子線センター」があり、入院する必要がなく、仕事をしながら受けることができ、手術ではありませんから痛みがないからです。照射台の上に30分ほど体を横たえるだけで、これほど楽で確実な治療はありません。ただ、費用が高く314万円+消費税となりますが、先進医療として受ければ、それをカバーしてくれる民間の保険会社の健康保険に加入していますから、せいぜい数十万円ですみます。しかし、転移がおこっていれば、重粒子線療法が適応でないケースがあります。つまり、ゆめゆめ、下手な代替療法に走って、手遅れにならないようにしなければいけません。
そのためには、定期的にPSAをチェックすることです。特に家系的に前立腺がんにかかった人がいる場合、40代の前半で一度はPSA検査をしてください。父親や兄弟に前立腺がん患者が1人いるとリスクは2.5倍、2人いると5倍高くなといわれています。PSAが1.1ng/mL~基準値であっても、半年から1年以内に再度検査してください。(基準値は50~64才で3.0ng/mL以下、65~69才で3.5ng/mL以下、70才以上で4.0ng/mL以下です)。
また、高額の先進医療をカバーできる民間の健康保険に、若い時から入っておくことです。加入時期が若ければ若いほど、掛け金は安くなります。

以下に、効果的なサプリメントを列挙します。前立腺肥大のサプリメントと重複するものもあります。ここで、注意していただきたいのは、これらはあくまで自然なものを材料としたサプリメントであり医薬品ではありませんから、それなりに限界があるということです。
何らかの医薬品を服用されている人は、これらのサプリメントをお摂りになる前に、必ず主治医と相談してください。

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ザクロ

ザクロに多く含まれるエラグ酸、ルテオリン、プニカ酸などの組み合わせは、特に転移をおこしやすいタイプの前立腺がんに効果があると証明されています。

参考文献:Luteolin, ellagic acid and punicic acid are natural products that inhibit prostate cancer metastasis
(英語)https://academic.oup.com/carcin/article/35/10/2321/323353

 また、エラグ酸から腸内細菌で代謝されてできる、最近特に注目されているウロリチンAは前立腺がんのアポトーシスを促します。

参考文献:Urolithin A induces prostate cancer cell death in p53-dependent and in p53-independent manner.
(英語)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31177307

さらに、ウロリチンAはそれだけなくミトコンドリアを活性化し、筋肉の脆弱化を防ぎます。加齢による筋肉量減少、いわゆる「サルコペニア」に対しても効果があるのです。前立腺がんの罹患率は加齢とともに増えてきます。つまり、サルコペニアがおこる年齢に多いのです。したがって、まだ足腰の丈夫な40代後半の健康なうちから、ザクロでエラグ酸などのファイトケミカルを補うことは非常に理にかなっていると考えられます。 また、血圧降下作用やLDLコレステロールを減らす作用もザクロにはありますので、メタボ対策にも利用できます。メタボリックシンドロームの人は前立腺に問題がおこる率が高くなります。 注意:エラグ酸は緑茶のカテキン類と拮抗しますので、ザクロの効能を得るには、緑茶と一緒には摂らないほうが良いでしょう。

ノコギリヤシ(Saw palmetto)

北アメリカ原産の背の低いヤシの一種で、葉がのこぎりのようにギザギザしているためにこう呼ばれています。英語ではSaw palmetto で、この 「Saw」は、見る「See」の過去形の「Saw(見た)」ではなく、「ノコギリ」という意味です。
前立腺肥大に昔から世界中で使われており、「前立腺肥大症」のページにも紹介しています。 ノコギリヤシの実のエキスは5-α-reductaseの活性を阻害し、テストステロンがジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)に変換されるのを防ぎます。

DHTは前立腺の組織を過剰に増殖させ前立腺肥大をおこすだけでなく、アンドロゲンやCXCR4(ケモカインの一種)のレセプターをアップレギュレーションして、前立腺がんの転移を促します。 したがって、特に「待機療法」中の患者さんには、すすめられるサプリメントです。

ビタミンK2

前立腺肥大症」のページに詳しく書きましたが、精索静脈瘤ができると、前立腺の近くの静脈には通常の130倍ものフリーなテストステロンが流れることになります。テストステロンそのものは前立腺がんをひきこすことはありませんが、それが代謝されてできるジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)が、それなりに大量に生産されてしまい、ノコギリヤシのところに書きましたようにがんの増悪・転移を促します。

したがって、精索静脈瘤ができてしまう原因である静脈壁中膜の平滑筋の肥厚と石灰化を防がなければいけません。それにはビタミンK2が必要なのです。
注意:ワルファリン(商品名:ワーファリン)などを服用している人は、このビタミンは摂らないでください。

亜鉛

前立腺の細胞は亜鉛を通常たくさん含んでいますが、前立腺がんになると著しく亜鉛が減ってきます。がん細胞の成長を抑制するために、前立腺細胞のアンドロゲンレセプターの発現阻止には亜鉛が大量に必要とされるからです。

参考文献:Zinc Inhibits Expression of Androgen Receptor to Suppress Growth of Prostate Cancer Cells
(英語)https://www.mdpi.com/1422-0067/19/10/3062

しかし、亜鉛を長期間、つまり1年以上、毎日お摂りになるのはひかえたほうが安全です。
普通の血液検査では亜鉛の量を測定しません。しかし、ALP(アルカリホスファターゼ)という酵素は、一般の健診でAST、ALTなどと一緒に必ず調べられます。多くは、正常値より高いときに注意が促され、健診のあと、肝臓や胆嚢の精密検査を要するというようなコメントがついてきます。ところが、これが低い値を示すときは、けっこうないがしろにされやすいのです。と、いいますのは、ALPが正常よりも低い値を示すのは、「遺伝性低ALP血症」という10万人に一人ほどしか起こらない病気と、「甲状腺機能低下」や、亜鉛かマグネシウムが少ない場合だからです。
過去の健診のデータを見てください。もし、ALPが正常値以下であった場合、亜鉛不足も疑ってください。特にアルコール依存症の場合、亜鉛は欠乏します。

セレン(セレニウム)

足指の爪のセレン含有量は長期にわたりどのくらいのセレンを摂取したかの最も正確な指標になるといわれています。オランダで58279人(55~69才)の男性の足指の爪にあるセレンの量と、前立腺がんの発症率を6.3年追跡検討したところ、セレンの量が少ないほど、前立腺がんの発症率が高いという結果がでました。(肺がんについても同じような結果です)。

参考文献:After 6.3 years of follow-up Toenail Selenium Levels and the Subsequent Risk of Prostate Cancer
  (英語)http://cebp.aacrjournals.org/content/12/9/866.short

現代の病気を解く6つのキーワード:活性酸素とフリーラジカル2」にもセレンについて書いていますので、そこをお読みくださればおわかりになりますが、セレンは高分子抗酸化物質であるグルタチオン・ペルオキシダーゼという酵素の不可欠な構成要素なのです。つまり、セレンが不足すると、活性酸素消去能力が非常に落ち込むのです。
極端な偏食をしないかぎり、普通の日本の食事をしていればセレンは不足しないといわれていますが、がん予防のためには積極的に補ったほうが良いでしょう。200μgをサプリメントから摂ってください。ただし、糖尿病の人はセレンをサプリメントから補うのは止めてください。
セレンをとり過ぎると、爪の変形、脱毛、頭痛、めまい、吐き気、不眠、ニンニクに似た体臭、ふけの異常増加、口の中に異常な(特に金属のような)味が残るというようなことがおこることがあります。それはセレン過剰の兆候ですから、サプリメントをとるのはしばらくひかえたほうが賢明です。

月桃

月桃(JIPANG Ginger)

この熱帯から亜熱帯に多い多年草の植物は、厳しい紫外線から身を守るために、非常に多くのポリフェノールやカロテノイドを含んでいます。特にフェルラ酸、ケルセチン、ケンフェロールなどのフラボノイドの含有率が高く、これらは前立腺がんの発症を予防してくれます。
フェルラ酸は前立腺がん細胞の細胞周期に作用し、がん細胞のアポトーシスを促します。

(英語)https://link.springer.com/article/10.1007/s13277-015-3689-3
ケルセチンは前立腺がん細胞のアンドロゲンレセプターの機能を抑制します。
 (英語)https://academic.oup.com/carcin/article/22/3/409/2733786
ケンフェロールはがん細胞のマクロファージコロニー刺激ファクターを刺激します。
(英語)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0303720708000245

魚油

ニュージーランドのオークランドでの研究ですが、317人の前立腺がん患者と、480人の前立腺がんでない人の、赤血球におけるEPA とDHA由来のフォスファチジルコリンのレベルを比較したところ、EPA とDHAを多く摂取している人たちの方が前立腺がんの罹患率が低かったのです。

参考文献:Prostate cancer risk and consumption of fish oils: A dietary biomarker-based case–control study
(英語)https://www.nature.com/articles/6690835

ご存じのようにEPA とDHAは魚油に多く含まれています。この二つのオメガ3不飽和脂肪酸は、アラキドン酸の代謝経路を調節しています。
過剰なアラキドン酸の存在は、5-LOX(5-lipoxygenase)という酵素を増やします。この酵素は前立腺がんの増殖を刺激します。またこの酵素によって、アラキドン酸は5-HETE(5-hydroxyeicosatetraenoic acid)という脂肪酸に変換されます。そして、この脂肪酸はがん細胞のアポトーシスを阻害するのです。前立腺がんの組織には正常な前立腺組織の6倍もの5-LOXが存在し、5-HETEは2.2倍も多く存在するのです。
アラキドン酸は赤みの肉に多く含まれています。また、オメガ6系統の不飽和脂肪酸を多く含む紅花油(サフラワー油)、サンフラワー油、ナタネ油などの植物油からも代謝されてきます。
したがって、前立腺がんの予防には、肉食をひかえ、EPA とDHAを多く含む魚を食べ、紅花油(サフラワー油)、サンフラワー油、ナタネ油などの植物油を使わないことです。

チャーガ(カバノアナタケ)

シベリアや北海道の、主に白樺の幹に寄生する、学名がInonotus obliquusというキノコです。一見したところ石炭のよう黒い塊で、それが樹皮から瘤のように出ています。キノコというイメージからは随分、様相を異にしています。ロシアでは農民がこれからお茶をつくり、伝統的な健康飲料としていました。ロシアのノーベル賞作家ソルジェニツィンの作品「ガン病棟」にもチャーガについての記載があります。バルト三国の一つ、エストニアでは、がんの代替療法には、抜きん出て多く使われています。

参考文献:Estonian folk traditional experiences on natural anticancer remedies: From past to the future
(英語)https://www.tandfonline.com/doi/full/10.3109/13880209.2013.871641

このキノコはアガリクスの3~4倍のβ-グルカンを含んでおり、しかもそのβ-グルカンは水溶性と、水溶性でない2種類があり、特に後者の水に溶けないβ-グルカンがチャーガに特異的で、それが他のキノコと比べてより強い抗腫瘍作用を示すといわれています。その他、サポニン、イノシトール、リグニン、フラボノイド、トリテルペノイド、SODなど、数多くの健康に役立つ物質を含んでいます。
したがって、抗腫瘍作用のみならず、活性酸素除去能力が他のキノコの20~30倍もあり、生活習慣病に幅広く効果を示してくれます。
また、血糖値を下げる作用もあり、糖尿病に対しても優れたサプリメントです。血圧降下作用も認められています。また、木質化した細胞壁同士を結合させるリグニンによる、抗ウイルス作用も際立っており、インフルエンザウイルスやエイズウイルスの増殖抑制効果もあります。その他、アレルギー性疾患、慢性腎炎、慢性肝炎の改善作用、痔の予防、消化促進作用、神経痛、リウマチに対する鎮痛作用もあります。

参考文献:Anti-inflammatory and anticancer activities of extracts and compounds from the mushroom Inonotus obliquus
(英語)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308814613000526

参考

下記は、骨に転移し、ホルモン療法に反応しなくなった前立腺がんに、キノコの代替療法が劇的に効いたという群馬大学医学部泌尿器科の論文です。

参考文献:Dramatic Remission of Hormone Refractory Prostate Cancer Achieved with Extract of the Mushroom, Phellinus linteus
  (英語)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15331908

Phellinus linteusとは「メシマコブ」の学名です。コンブの一種のように聞こえますが、メシマコブはタバコウロコタケ科キコブタケ属の一種で、いわゆるサルノコシカケの近種です。
「冬虫夏草」というキノコの主成分であるコルジセピンは、前立腺がんのアポトーシスをひきおこすという研究があります。

参考文献:Apoptosis induction of human prostate carcinoma cells by cordycepin through reactive oxygen species mediated mitochondrial death pathway
(英語)https://www.spandidos-publications.com/10.3892/ijo.2013.1762?elq=1ffa1af5573d46a9abb6a12b7ca25607

たしかに、キノコには、現代医学の常識では説明しがたい効能を発揮するものがあるようです。しかし、メシマコブにせよ冬虫夏草にせよ非常に高価です。したがって、安価なチャーガを紹介しました。

日本のどこのスーパーマーケットでも最低4~5種類のキノコが売られています。シイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、キクラゲ……。それらには、未だ解明されていない、各々微妙に違う健康増進、抗腫瘍作用を示す物質が多数混在しているはずです。したがって一種類のキノコより、多種のキノコを同時にとったほうが、相乗効果があって、抗腫瘍作用は単独のキノコのサプリメントよりも高いかもしれません。
 一昔、野菜スープというものが流行りました。がんにまで卓効を示すと過大に宣伝されたため、かえって胡散臭くなってしまい、挙げ句の果てには、薬事法違反で逮捕者まででました。しかし、今、ふりかえてみると、それなりに根拠があります。
野菜は煮ると汁の方に栄養が滲みでてきます。ビタミンCなどは熱を加えると破壊されるといいますが、それは比較の問題で、生のキャベツでは1枚分のビタミンCしかとることができなくても、10枚分のビタミンCが汁に滲みでていれば生でとるよりも、煮て、その汁を飲んだほうが効率的だということになります。特にすべてのキノコに共通する抗腫瘍ファクターであるβ-グルカン、エルゴステロールなどはビタミンCよりもずっと熱に強いので、その心配はしなくていいでしょう。
スーパーマーケットで売られている安い数種類のキノコ、それにキャベツ(抗がん物質を含んでいます)、トマト(リコピンは特に前立腺がん、膀胱がんに有効)、ニンニク(これにはゲルマニウムが含まれています)、ニンジン(β-カロテン)、タマネギ(ケルセチンが豊富)などを、漢方薬を長時間煎じてつくる要領で半日から1日かけて、弱火で煮るのです。調味料はコショウ、トウガラシ(これらは強力な抗酸化物質を含有)、ニガリを十分に含んだ天然の粗塩(マグネシウム、マンガン、セレン、ヨード、コバルトなどの重要微量元素を含有)を使います。
この自家製スープを週に数度飲むのは、前立腺がんのみならず、すべてのがんに対する予防になるかもしれません。

トリファラ

シベリアや北海道の、主に白樺の幹に寄生する、学名がInonotus obliquusというキノコです。一見したところ石炭のよう黒い塊で、それが樹皮から瘤のように出ています。キノコというイメージからは随分、様相を異にしています。ロシアでは農民がこれからお茶をつくり、伝統的な健康飲料としていました。ロシアのノーベル賞作家ソルジェニツィンの作品「ガン病棟」にもチャーガについての記載があります。バルト三国の一つ、エストニアでは、がんの代替療法には、抜きん出て多く使われています。

参考文献:The in vitro cytotoxic and apoptotic activity of Triphala—an Indian herbal drug
(英語)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378874104004672

その最たる有効成分は、没食子酸のようです。緑茶のEGCG(エピガロカテキンガレート)は没食子酸とエピガロカテキンのエステルです。トリファラと緑茶の渋みは、没食子酸からきています。

フコキサンチン

これは、海藻の中でもコンブ、ワカメ、アラメ、ホンダワラといった褐藻類に多く含まれるカロテノイドの一つです。自然界にはおよそ600種類ほどのカロテノイドが存在します。β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン、ルテインなどはよく知られたカロテノイドで、鮮やかな黄色や赤色を呈していますが、フコキサンチンも鮮橙色です。
フコキサンチンの特殊性は3個の炭素の間に2個の二重結合が連続した C=C=C の部分構造(アレン構造と呼ばれています)です。この構造は他のカロテノイドには見られず、フコキサンチン独自のユニークな作用を発揮させるものと推測されています。

2000年ごろからフコキサンチンの脂肪燃焼効果が注目され、肥満対策によく使われ、私のクリニックでもメタボリックシンドローム改善のためにしばしば処方します。しかし、もともとフコキサンチンは、がんに効果があるということで、研究が始まったのです。

特にヒト前立腺がん細胞にアポトーシスを引き起こす作用は、数あるカロテノイドの中でもフコキサンチンが最も顕著であるといわれています。また血管新生阻止作用もあり、がんの転移阻止効果も期待できます。
白色脂肪細胞のミトコンドリア内膜でUCP1(Mitochondrial uncoupling protein 1 :脱共役タンパク1)を発現させ脂肪を燃焼させますから、抗肥満対策にも良く、その他、皮膚の老化抑制作用もあります。
また、一般的に海藻を多く摂ると、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)の発症リスクが大きく低下します。これは、日本人約9万人を20年間追跡調査した、筑波大学の研究です。

Seaweed intake and risk of cardiovascular disease: the Japan Public Health Center-based Prospective (JPHC) Study.
(英語)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31518387

フコキサンチンは、生の褐藻100gあたり6~20mgほどしか存在しておらず、サプリメントとして役立つ量を確保するのが、以前はけっこう難しかったのですが、最近の技術開発で、ようやく十分な量がとれるようになりました(フコイダンも海藻から取れますのでときどき混同されることがありますが、まったく別のものです)。
フコキサンチンだけのサプリメントはあることはありますが、私のクリニックでつくっているフコキサンチンのサプリメントは、フコキサンチン以外に、アシタバカルコンと桜の花エキスを足したもので、アシタバカルコン・ジャポニカという製品名です。詳しくは、「スリムジャパンの挑戦」をお読みください。

Epilobium(エピロビウム)

オオアカバナ、ヤナギランなどの215種類の植物を総称したアカバナ属の属名です。日本では一般にはあまり馴染みのないサプリメントですが、日本の研究者たちも1990年代から多くの研究を発表しています。
抗酸化、抗炎症、抗増殖、抗細菌、抗老化とじつにさまざまな作用を有しますが、エピロビウムのフラボノイドとエラジタンニンが主だった有効成分だとみなされています。その中で、ミクェリアニン(ケルセチン3-O-グルクロニド)とエノテインB (oenothein B)が、通常出回っているエピロビウムのサプリメントの主だった有効成分です。

特に大環状エラジタンニンであるエノテインBはホルモン依存性の前立腺がんの増殖を抑制し、またPSAの分泌も減らします。また、腸内細菌によりウロリチンA、B、Cに転換され、特にウロリチンCは最も強い抗がん作用を示します。
そして、エノテインBは5-α-reductaseの活性を阻害し、テストステロンがジハイドロテストステロン(dihydrotestosterone :DHT)に変換されるのを防ぎます。これは、ノコギリヤシの実のエキスの作用と同じです。
また、ピロリ菌や黄色ブドウ球菌などにも強い抗菌作用を示します。
エピロビウムに関してもっと詳しい説明を知りたい人は、英文ですが下記の論文が総括的で役にたちます。

参考文献:Therapeutic Potential of Polyphenols from Epilobium angustifolium (Fireweed)
(英語)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5045895/#R135

IP6

イノシトール6リン酸(inositol hexaphosphate)の略で、フィチン酸とも呼ばれています。イノシトールにリン酸が結合したリン酸化合物の一種で、体内にも多く存在し、リンの供給元にもなっています。およそ60年前に、腎結石の予防や治療に応用されたのが研究の始まりです。その後、血小板の凝集抑制作用による冠動脈心疾患・血栓症・塞栓症などのリスク低下、コレステロールなどの脂質の改善、貧血

の予防など、多くの有益な効果をもつことがわかってきました。特に注目されているのは、抗がん作用です。大腸がん、乳がん、肺がん、白血病、悪性黒色腫などに対する効果です。前立腺がんにも有効です。

参考文献:Prostate Cancer and Inositol Hexaphosphate: Efficacy and Mechanisms
  (英語)http://ar.iiarjournals.org/content/25/4/2891.short

進行し、転移までおこしてしまっている前立腺がんにどの程度効果があるかはわかりませんが、予防、あるいは「待機療法」中であれば、摂取する価値は十分にあると考えられます。
前立腺がんにかかる年齢では、しばしば、コレステロールや中性脂肪が高く、動脈の石灰化なども進行していることが多いものです。IP6はそれらの予防にも一役買ってくれるわけですから、緑茶などと一緒にお摂りになることがすすめられます。
また、精索静脈瘤はビタミンKのところに書きましたように、前立腺の近くの静脈に、大量のテストステロンを存在させることにより前立腺がんの発生を促します。ですから、精索静脈瘤の原因である静脈壁中膜の平滑筋の石灰化を防がなければいけません。それにはビタミンK2とともに、IP6は有用だとみなされます。

緑茶

「外国の男性と比べて、日本の男性に前立腺がんが少ないのは、お茶をよく飲むからである」といわれています。これは前立腺がんだけでなく、肺がんや、大腸がんなどについてもよくいわれることです。
  緑茶に多く含まれるカテキンは、ポリフェノールのフラボノイド系のフラバノール類に分類され、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなど主に4種類ありますが、その中で最も作用が強いのが、エピガロカテキンガレート(epigallocatechingallate)です。略してEGCGと呼ばれています。 

エピガロカテキンと没食子酸のエステルです。緑茶の抽出エキス中には、このEGCGが最も多く含まれています(およそ60%)。エピガロカテキンが約20%、エピカテキンガレートが約14%、エピカテキンが約6%です。お茶の渋みのもとになるのがEGCGで、良薬は口に苦しとはまさに、このことです。
EGCGの抗がん作用については、世界中で数多くの研究がなされており、前立腺がんのアポトーシスを促進、血管新生の抑制による転移の阻止、がん細胞をばらばらにして転移をおこさせやすくする作用があるウロキナーゼという酵素の働きも阻害、アンドロゲンレセプターのブロック作用などの総合的な働きによって、がんに効果があるようです。
長崎大学の泌尿器科の研究者たちによる、緑茶のカテキンと前立腺がんに関する2019年の論文は、効果のメカニズムを詳述しています。

参考文献:Anti-Cancer Effects of Green Tea Polyphenols Against Prostate Cancer
(英語)https://www.mdpi.com/1420-3049/24/1/193

注意

  • 前立腺がんは別名「沈黙の病」と呼ばれるほど、初期の場合、およそ6割の患者さんに、これという症状はありません。そのため、腰椎にがんが転移して、腰痛が始まって、整体やカイロプラクティックで治療したがまったく改善しないので、整形外科でレントゲン撮影をしてもらってやっと転移に気づくことがあるのです。(膵臓がんも腰痛から発見されることがあります)。
    家系的に前立腺がんの患者さんがいて、年齢が50才をこえ、これという理由なく腰痛を感じられたら、前立腺がんも疑ってください。

  • もし、血のつながっている人で、乳がんや卵巣がんにかかった人がおられるなら、要注意です。女性だから、男性には関係ないと考えては間違いです。BRCA1やBRCA2という遺伝子に変異がある場合、乳がんや卵巣がんにかかる率が高くなり、男性では前立腺がんにかかる率が高くなります。家系的に乳がんや卵巣がんの人がいる場合、男性は前立腺がんの予防に注意を払ってください。

  • ビタミンEをサプリメントから積極的に摂るのは、前立腺がんには良くないようです。

参考文献:Vitamin E and the Risk of Prostate Cancer The Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial (SELECT)
(英語)https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/1104493
  • 夜はどんなに遅くとも午後11時までには床に就いてください。理想は午後10時までです。その分、朝は早くおきてけっこうです。同じ8時間睡眠をと  るのであれば、夜1時に寝て朝9時に起きるより、夜10時に寝て朝6時に起きる方が、健康のためには良いのです。(便秘でさえ、午後10時に就寝すると、治ったという人もいます)。
    それは、主にホルモンの分泌の関係からです。ホルモンは数多くあり、それぞれが単独で働くのではなく、他のホルモンと調和しながら、ちょうどオーケ  ストラの楽器が他の楽器と共に一つのシンフォニーを奏でるように、人体という壮大な音楽をコントロールしています。

特に成長ホルモン、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンはがんに非常に深く関係しています。これらがきっちり分泌され十分に働くには眠るタイミングが重要です。成長ホルモンは、午後11時~午前3時ごろ、また、特に就寝後3時間後に分泌がピークに達します。それと、血糖値が高ければ分泌が鈍ります。したがって、理想は夕食を午後6時30分までに終わり、すぐに床には着かず、血糖値が下がる2~3時間以上あと、つまり9時か10時ごろには床に着くことです。成長ホルモンは子供の背たけをのばすだけでなく、80才になっても分泌され、多彩な働きをします。
その働きの一つとして、成長ホルモンは、甲状腺ホルモンのT4(テトラヨードサイロニン)からT3(トリヨードサイロニン)への変換を促進します。T3が、生理活性が強く、これがうまく生産されなければ代謝が遅くなり、免疫機能も落ちてきます。
副腎皮質ホルモンはおおまかに言うと、アルドステロン、コルチゾール、アンドロゲンになりますが、この中のコルチゾールとは抗ストレス作用があります。このホルモンは明け方から起床後の1時間以内に多く分泌されます。明け方とは、午前4時ごろからを意味します。つまり、夜更かしをして午前1時や2時ごろに就寝すると、このホルモンの分泌も悪くなるのです。

デンマークでの研究ですが、夜間勤務による乳がんの発生率を調べたところ、昼間勤務のみの乳がん発生率を1とした場合、夜間勤務(交代) で1.8倍、夜  間勤務のみで2.9倍です。したがって、デンマーク政府は夜間勤務のために乳がんが生じたことを公式に認め、労災としました。乳がんと前立腺がんは違いますが、どちらも性ホルモンに強く影響を受けるがんであることが共通しています。したがって、夜間勤務をすれば乳がんの発生率が高くなるのであれば、前立腺がんの発生率も高くなりそうです。
また、夜間勤務をするとメラトニンの分泌が5分の1に減りますので、抗酸化物質であるメラトニンの減少も悪く影響してきます。

しかし、仕事の関係から、とても午後10時までには床に着けないという人も大勢おられるはずです。止むを得ませんが、それでも午前0時までには就寝  し、その分、早起きをして、するべき仕事は朝になさることです。どんな病気も夜更かしすると、非常に治りが悪いのです。ましてや、午前2時以降に寝る人は、病気はまず治らないといっても、いい過ぎではないくらいです。なぜなら、古来、ヒトは日の出とともに目覚め、日没と共に安らぐようにプログラミングされているからです。そのリズムを変え、午前2時以降に就寝しても健康を保てるようにヒトが進化するには、あと数万年という時間がかかるでしょう。それに、早く就寝するのに、一銭も余分なお金はかかりません。これほど安価で重要な健康法はないのです。この基本をないがしろにすると、どんなに優秀なサプリメントを摂っても、効果は半減します

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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