1) Th1とTh2

Th 1 細胞、Th 2 細胞とは免疫に関係するリンパ球です。ここで、図を見てくだされば、Th 1 細胞、Th 2 細胞の人体における位置づけが見通せるでしょう。白血球の一つであるリンパ球がさらに分化した細胞です。

Th 1 細胞はキラーT細胞の分化や働きを助けたり、マクロファージも活性化し、細菌やウィルスなどの異物を攻撃、破壊して感染を防ぎます。 またB細胞にIgG型抗体を産生させ、Ⅱ型アレルギーやⅢ型アレルギーをおこさせます(Ⅱ型アレルギーは免疫性溶血性貧血や重症筋無力症など、Ⅲ型アレルギーは血清病や糸球体腎炎などで、ここでは詳しく立ち入りません)。
Th2型免疫異常は、IL-4、IL-13、IL-31などの2型サイトカインを介して痒みをおこし、表皮角化細胞のフィラグリン産生を抑制して皮膚バリア機能を低下させるため、アトピー性皮膚炎病態の中心的な役割を果たしています。

そのため、Th 2 が増えればⅠ型のアレルギー(花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、アトピーなど)を悪化させます。
Th 1 細胞とTh 2 細胞は、免疫全体のバランスをたもつために、それぞれ異なるサイトカインを出して、お互いに牽制しあっています。

2)衛生仮説

幼いときに細菌やウイルスに感染すれば、アレルギー疾患にはかかりにくいというのが、「衛生仮説」です。1989年イギリスのStrachan博士によって提唱された説ですが、反論も多いのですが、異常に清潔好きのぼくたち現代日本人にはうすうす気づかれていたことです。抗菌グッズに囲まれたクリーンな生活環境はアレルギー疾患を引き起こしやすくするのではないかということです。博士は2万人に近い人を20年以上に渡り追跡調査し、疫学的に立証したのです。
一般的にいって、新生児期にはTh2細胞優位なのですが、その後、細菌、ウイルス、細菌がだす毒素などに接し、Th1細胞が優位になり、Th1/Th2はバランスのとれたものになっていきます。つまり健康に成長していくには、微生物からの適度な刺激がなくてはならないということなのです。泥とたわむれ、野山をかけずり回る時期が必要なのです。ところが無菌室とまではいきませんが、それに近いような環境で、しかも少子のために過保護に育てられると、Th2細胞優位のままになってしまうのです。また、乳幼児に過剰に抗生物質が使われ、悪いバクテリアのみならず無害なバクテリアも十把一からげに一掃されてしまうと、その後のアレルギー発症頻度が高くなります。 本当に賢い親たちは直感的にそれを知っており、ある程度子供を突き放して、抗生物質もできるだけ使わないで成長を見守ってきたのです。

3)エストロゲンの大海

しかし、Th1/Th2のバランスが崩れ、Th2細胞が優位になる原因にはもう一つ重大なものがあります。それは内分泌攪乱物質、いわゆる環境ホルモンです。 

ビスフェノールAはプラスチックの成型に使われる酸化防止剤の原料で、学校給食が盛られるポリカーボネート(PC)から溶け出す可能性があります。これには強力なエストロゲン作用があるのです。ところが、これが哺乳ビンにさえ使われています

それから、人類が生んだ史上最強の毒物といわれるダイオキシンです。その毒性は青酸カリの1000倍、1グラムで17000人を殺せるのです。しかも、どこにでも使われている塩化ビニール、塩化ビニリデンを燃やすと生成され、いったん体内に取り込まれるとなかなか外には出てくれないという、実にやっかいな物質です。
当初はがんや奇形の発生ばかりにダイオキシンの影響は関係すると見られていたのですが、その後の研究により、この凶悪な物質もエストロゲン様作用することが解明されてきたのです。
ピコグラム、つまり1兆分の1の単位で作用します。1兆分の1といわれてもピンとこないでしょうが、50メートルプールにスポイトの1滴というイメージでよくわかるでしょう。胎児期にダイオキシンにさらされても、つまり母親が吸収すると、生後のTh1機能が衰えます。
しかし、環境ホルモンはビスフェノールA、ダイオキシンの2例だけではないのです。確実に『悪』とわかっているものだけでも、ゆうに100は超えるでしょう。しかも、その大部分が、1兆分の1~10億分の1という単位でエストロゲン様作用を示すのです。

つまり、ぼくたちはエストロゲンの大海に住んでいるのです。

4) Th1/Th2バランスの是正

しかし、このエストロゲンの大海にどっぷりとつかってしまった環境から、現実的には、ぼくたちは逃れることはできません。

南太平洋のタヒチかニューカレドニアに移住し、プラスチックの食器をすべて捨て、自分たちの手による無農薬栽培の食物を食べて生きなければいけません。よほどお金と時間のないかぎり不可能なことです。

将来的には地球を覆うこの環境を正常なものへと変化させることは可能であり、また絶対にそうしなければいけません。しかし、すでにバランスが崩れてしまったリンパ球をもとにもどす手段を今、講じなければいけません。

① オメガ-3不飽和脂肪酸
ここでもフラックスシードオイルやエゴマオイルなのです。なぜなら、アラキドン酸から代謝されてできるプロスタグ ランジンE2は、未分化のT細胞をTh2細胞に分化させる作用があるのです。このアラキドン酸カスケードと拮抗するのが、オメガ3系統の油なのです。そういう意味でも、エゴマオイルやフラックスシードオイルは、アレルギー疾患に非常に効果があります。

② 乳酸菌(ヨーグルト、ぬか漬け、キムチ)
乳酸菌の種類に注意してヨーグルトを選んでください。ビフィズス菌がメインになっているヨーグルトは、現在のところ避けたほうが無難です。その理由は、ビフィズス菌は種類によっては、アトピー治療に重要なビオチンというビタミンを消費してしまうからです (ラベルに注意してください。「ビフィドバクテリウム」という文字はビフィズス菌を示します)。そこで、乳酸桿菌「ラクトバチルス」系がすすめられます。ラクトバチルス・パラカゼイかラクトバチルス・アシドフィルスがいいでしょう。
また「ぬか漬け」や「キムチ」もいろいろな種類の乳酸菌を含んでいますが、特に乳酸桿菌が 多いのです。 したがって、アトピーには非常にいい食材なのです。

③ キノコ
キノコ類がTh1/Th2のバランスを是正してくれます。また、ササの葉エキス、フコイダン、キチン・キトサンなども効果があるようです。
これらに共通するのは、細胞壁に含まれ最含まれているβグルカンや硫酸化多糖類といった高分子多糖類です。これが免疫系を調節してくれるのです。
スーパーで売られている安いシイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、キクラゲなどで自家製キノコスープをつくってください。漢方と同じように、時間をかけてゆっくりと煮込まなければいけません。

④ 梔子柏皮湯(ししはくひとう)
これは山梔子(さんしし:クチナシの皮)、黄柏(おうばく:キバチの皮)、それと甘草(かんぞう)を混ぜてつくった漢方薬です。この漢方薬はTh1/Th2のバランスを是正する作用をもっています。
また、医王湯とも呼ばれる補中益気湯(ほちゅうえっきとう:人参、朮、黄耆、当帰、陳皮、大棗、柴胡、甘草、升麻、 乾生姜)や、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう:人参、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎、芍薬、地黄、黄耆、桂皮)は、よく 抗がん剤使用中の副作用軽減のために使われますが、Th1細胞も増加させます。

5)まとめ ー アトピー性皮膚炎の優先的な解決策
したがって、特にアジアにおいては、まず「油と過剰なタンパク質」を解決することが必須です。 そして、次が「Th1/Th2のバランスの是正」なのです。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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