そうであるなら、なぜ、世界中の医者はやっきになって下げろというのでしょうか?それは、高い血圧が何年も続くと将来的に、心・血管系の病気(特に心筋梗塞や狭心症)、脳梗塞・脳出血などの病気をひきおこす可能性が大きくなるからです。全身の血管の内皮細胞はテニスコート6面、つなげると10万キロ(地球2周半)、総重量はおよそ肝臓と同じで、持続する高血圧はそこにダメージを与えるのです。
日本人の死亡リスク因子では、高血圧はタバコに続いて2位です。高血糖やアルコールよりも高く、毎年およそ10万人が高血圧を主因とする病気で死亡しているのです。
収縮期の血圧をたった2mmHg 下げるだけで、脳卒中による死亡は1万人減り、循環器疾患全体の死亡は2万人減少するといわれています。
若年成人ですら、血圧が高い場合、正常の人と比べて、脳の萎縮がおこっている可能性があるのです。これは、ドイツのマックス・プランク認知神経科学研究所 Arno Villringer氏らの研究です(「Neurology」2019年1月23日オンライン版)。

また、アメリカで行われたSPRINT試験(The Systolic Blood Pressure Intervention Trial: 収縮期血圧介入試験)の影響もあります。これは、9361人の患者さんを対象にし、降圧剤を使って収縮期血圧の目標を140mmHg(標準治療)、収縮期血圧の目標を120mmHg (厳格治療の)2群にわけて、2010~2015年、平均3.26年フォローした試験です。その結果は、厳格治療をおこなったほうが、心・血管系の病気の発生率が25%減ったというのです。この試験に対しては、さまざまな反論もあるものの、全世界の多くの医者たちが、血圧は低ければ低いほうが良い、「The lower, the better」という潮流に乗ったのです。

しかし、ここで重要なポイントは、血圧が高ければ高いほど「心・血管系の病気の可能性が大きくなる」だけであり、必ずしも100%心筋梗塞や脳梗塞・脳出血がひきおこされるというのではないことです。いいかえれば、心筋梗塞や脳梗塞にならない人もいるということです。しかも、5年、10年、15年とその高血圧状態が続いたときにです。それでも、高血圧の程度によりますが、発生率が2倍になるようなことはありえません。来週にでも心筋梗塞が発症するわけでもないのです。

つまり、高血圧の基準値は改訂されたものであろうと、旧来のものであろうと、これからあなたがどれほどの確率で脳・心血管系の病気にかかる「指標」ととらえればよいのです。160/100mmHgでも寿命をまっとうする人はけっこういます。また、人は、高血圧がひきこす病気だけで死ぬのではありません。死因の7割は、心・血管系の病気以外です。したがって、高血圧と指摘されたからといって、ショックを受けるようなことは、まったくないのです。つまり、この指標によって、未病のうちに、重篤な病気を回避できるのですから。

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