1)油が問題
問題は、なぜ最近になって急にアトピーを筆頭に、喘息、花粉症といったアレルギー性疾患が増えてきたかということです。ここ、せいぜい30年~40年の出来事です。ぼくが医学生だったころの皮膚科の教科書には、アトピー性皮膚炎の記載は、わずか数行しかありませんでした。こんなわずかな期間に、ぼくたちのDNAの変化による体質変化はおこりえません。
その、アレルギー性疾患増大の大きな原因の一つは、特に植物油に多く含まれるリノール酸から代謝されてできるアラキドン酸が、細胞膜を構成しているリン脂質に過剰に蓄積し、悪影響を及ぼしていることなのです。アラキドン酸からは悪性のエイコサノイドが代謝されます。では、アラキドン酸やエイコサノイドとは何なのでしょうか。
エイコサノイドとは、ごく簡単にいえば、必須脂肪酸が代謝されて細胞膜でできる最終の物質で、その細胞および付近で強力なホルモンのような働きをする、骨格に炭素原子を20もつものです。したがってローカル・ホルモンといってもさしつかえないでしょう。
下の図を見てください。
良性エイコサノイドの作用: | 血管拡張、血小板凝集抑制、抗炎症、がん抑制、アレルギー症状寛解 | ||
悪性エイコサノイドの作用: | 血管収縮、血小板凝集促進、炎症増強、アレルギー症状増悪 |
数多くのエイコサノイドを、人体に有利に作用するものを良性、不利に作用するものを悪性というふうに分類します。非常にあらっぽい分け方なのですが、ここではわかりやすさを優先させます。
いいかえれば、最近、特に増えてきたアレルギー疾患は、細胞膜に過剰に蓄積されたアラキドン酸が大きな原因の一つなのです。
つまり、アトピーを治すのに大事なことは、オメガ3系の油を増やし、オメガ6系不飽和脂肪酸とのバランスを適切なものにすることなのです。
また、動物性の牛、豚、羊、鶏などの肉、とりわけ反芻胃をもっていない豚と鳥の肉にはアラキドン酸が多く含まれていますので、これらも悪性エイコサノイドの材料を多く提供していることになります。したがって、できるだけ肉食をさけることです。
しかし、現代は、特に国が豊かになればなるほど、西洋的な食事、つまり油と肉を使う料理が多くなり、オメガ3とオメガ6との比率(オメガ3÷オメガ6の値)が小さくなってきています。これが、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症が、急増している大きな原因の一つなのです。
したがって、リノール酸を多く含む、サフラワー油(べに花油)、サンフラワー油(ひまわり油)、大豆油、コーン油、コットンシード・オイル(綿実油)、ゴマ油、落花生油、小麦胚芽油、月見草油、グレイプシード・オイルなどの摂取を可能なかぎりひかえてください。
2)過剰なタンパク質
西洋式の食事は非常にタンパク質が多く、これも災いしています。
タンパク質はポリペプチドに分解され、さらにアミノ酸にまで細かく分解されてから、腸管から吸収されます(タンパク質→ポリペプチド→アミノ酸:このアミノ酸の段階で吸収)。
しかし、過剰のタンパク質摂取のため、アミノ酸にまで分解されず、分子量1万以上のポリペプチドが残る場合があります。その場合、腸管膜が健康であれば、小腸粘膜の上皮細胞に取り込まれ、そこで分解された後に吸収されます。
しかし、乳児の場合や、体調を崩したときや、精神的ストレスが長引いたときなど(脳と腸は密接につながっています)、ポリペプチドが腸管粘膜から粘膜下組織に侵入し、血液中に入ってくることがあります。ポリペプチドはアミノ酸ではありませんので、消費されることなくジャンクとして体の中に残っていきます。
また西洋式の食事のタンパク質は、魚を多く食べる地中海や北欧の一部以外では、ほとんどが牛、豚、羊からのいわゆる獣肉からです。これらにはリノール酸以上に直接に悪性エイコサノイドにつながるアラキドン酸が多量に含まれています。つまり、現在、世界中に蔓延しようとしているアトピー性皮膚炎の最大原因の一つは、要約すれば、肉食による過剰なタンパク質摂取とアラキドン酸の増加、そしてオメガ6系列のリノール酸のとりすぎであるということになります。
したがって、アトピーを治すには、日本の本来の伝統的な食事にもどり、洋食に多い肉・乳製品はとらないことです。過剰な動物性の脂肪・タンパク質は日本人のアトピーをほぼ100%悪化させます。たしかに理論的には動物性タンパク質であろうと植物性タンパク質であろうと分解されれば同じアミノ酸になってしまいます。しかし、臨床の立場からいえば、どうしても動物性脂肪・タンパク質(牛肉、豚肉、マトン、鶏肉)はアトピーを悪化させます。事実ですから仕方がありません。のべ5万人以上のアトピー患者さんを診ていますが、その経験から確信をもって断言できます。
また、植物性のタンパク質でも摂りすぎると、良くありません。しばしばあることなのですが、ボディービルディングのためにジムに通うようになり、筋肉づくりのために、イソプロテイン(大豆タンパク)のシェークを飲み始めると急にアトピーが悪化する例です。過剰なタンパク質摂取には十分気をつけてください。これをお読みになっておられる人の中には、きっと思いあたる人がおられるはずです。
3)オメガ3不飽和脂肪酸をとろう!
アトピー性皮膚炎の根治療法は、まず食事をできるだけ野菜や果物の多いものにかえ、特に牛肉、豚肉、マトン、鶏肉といった高タンパク質でアラキドン酸を多く含むものを避け、サフラワー油(べに花油)、サンフラワー油(ひまわり油)、コーン油、大豆油、ナタネ油といったリノール酸の多い油を料理に使わないということです。
そしてオメガ3の不飽和脂肪酸の摂取を意図的にもっと増やしてください。これは、アトピーのみならず、狭心症・心筋梗塞やがんさえ含めた、多彩な病気の予防になり、また治療にもつながります。
そこで、ぼくのクリニックではオメガ3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸を確実に摂ってもらうために、エゴマオイル(荏胡麻油)、シソオイル(紫蘇油)、フラックスシードオイル(亜麻仁油)をすすめています。これらは、どこのスーパーでも売られています。小さじ2〜3杯/日。食後が良いです。花粉症の季節などで、症状が悪化傾向にあるときは、その倍ほど摂ってください。
特に、エゴマオイルが良いでしょう。フラックスシードオイルには含まれていない、ロズマリン酸やアピゲニンなど、アレルギー症状に効果的な物質も含まれていますから。なお、エゴマオイルはゴマオイルではないことに注意してください。エゴマとゴマはまったく違った植物です。
それから、食材としては、肉よりも魚を食べてください。魚にはオメガ3不飽和脂肪酸のEPAやDHAが豊富に含まれています。EPAやDHAはα-リノレン酸から体内で代謝されてできてきますが、通常、α-リノレン酸の7〜10%です。しかし、魚にはEPAやDHAそのものが含まれています。つまり、魚からは効率よくEPAやDHAを摂ることができるということです。
また、料理の仕方を工夫してください。炒め物にするより、水炊きにするという、ちょっとした工夫がアトピーを改善してくれます。
ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。
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