古代からの伝承医学では体に溜まった有害物質や濁った血を出すことに非常に重きをおいてきました。
たとえば、インドのアーユルヴェーダ医学では、「パンチャカルマ」という浄化法があります。催吐法、瀉下法、浣腸法、経鼻法、瀉血法と5つの方法で、体内を掃除します。 古代インド人は季節ごとに、その季節に適した各種の解毒法で、肉体と精神を浄化してきたのです。
現代日本人も同じことをせよとはいいませんし、アーユルヴェーダ専門医師の指導がなければ、これら5つの浄化法を安全にこなすことはできません。しかし特にアトピー患者さんには解毒が必要なのです。

アトピー患者さんの体には、過剰なタンパク質摂取から消化しきれずにできたポリペプチドが溜まっています。また微量の鉛、水銀、カドミウム、ベリリウム、モリブデン等の有害重金属、それに内分泌攪乱物質も災いしていることがあるでしょう。
有害物質を取り除くことは、適切なサプリメントを摂ることとあいまって、アトピー治療の効果をスピード・アップしてくれます。

1)断食

断食の効用は古代から確かめられてきました。その最たる作用は、余分なカロリーを削ぎ、体内に蓄積していた有害物質を外にだすということです。

しかし、水だけの本格的な断食を行うには経験を積んだ医師や指導者のもとで行わなければ危険なので、一般的ではありません(超重症のアトピー患者さんは、しかるべきところで、 断食に精通した医者のもとで試されることをおすすめします)。

そこで、朝食だけをぬくというミニ断食がすすめられます。
ここで書いておかねばならないのは、朝、昼、晩と三食しっかりと食べなければいけないという現代栄養学は、肥満と糖尿病の多いアメリカ流の栄養学であり、日本人のアトピー患者さんには、向いていないかもしれないということです。

朝は交感神経が活発になる時間です。ところが食事に関しては副交感神経が優位に働かなくてはいけません。 唾液腺、膵臓、胃、小腸、大腸はすべて副交感神経末端から分泌されるアセチルコリンによってその機能が促進されます。高校の生物の教科書にも書かれているほどやさしい事実です。

ところが、朝はこの働きを抑制する交感神経が活発に働きだすのです。つまり、食物の消化吸収にはふさわしくない時間帯なのです。 こういう時間に無理に食事をすると、眠りにつこうとする副交感神経が揺さぶりをかけられ、Th1/Th2のバランスも崩れてしまいます。

かつて多くの人たちが農業に従事していた時代、早朝から肉体労働するために、十分なカロリーを補充する必要があったかもしれません。しかし、現代人のほとんどは、特にアトピーにかかりやすい若い年代の人々は、生徒、学生、オフィスワーク、サービス業が主で、カロリーをそれほど消費しません。 しかも、学校やオフィスに行くのに徒歩で行く人はあまりいません。十中八九が余分なカロリーをもてあましているのです。

ありあまるカロリーとタンパク質を消化吸収にふさわしくない時間に摂取することは、特にタンパク質の場合、アミノ酸にまで分解されず大量のポリペプチドを腸内につくってしまいます。 これは最初に述べましたように、アトピーを悪化させる重大な原因の一つなのです。

過剰なポリペプチドと摂取カロリーを減らすのに最も簡単で、実際的な方法は朝食をぬくことです。 食品カロリー表などでいちいちカロリーを計算して、食事をする忙しい現代人はかなりの「おたく」です。たとえ、計算しながら食事をし始めたとしても、たいていは三日坊主に終わります。 事実上、続かないのです。

それに反して、朝食をぬくということは、単純な決意だけで十分なのです。もし、それが耐えきれないのであれば、朝は少しのパイナップルジュースか、リンゴジュースで我慢してください。 よく、ニンジン・ジュースを毎日飲んでいる人がいますが、アトピーの人は、毎日は飲まないほうが良いでしょう。 週にせいぜい2回~3回です。ニンジンは、体力が消耗する病気対策には良いかもしれませんが、アトピーには「あく」が強すぎるのです。

たとえば、夕食が8時で、朝食をぬき、昼の12時に食事を摂ったとすると、16時間断食をしたことになります。 これを日々、続けるということは、毎日16時間のミニ断食を続けることになり、体の浄化につながるのです。

縄文時代の日本人は日に1500キロカロリー~1600キロカロリー、江戸時代は1700キロカロリー、現代は2000キロカロリーの摂取です。 縄文時代と現代のカロリーの差は、ちょうど朝食分ほどにあたります。縄文人は日の出ともに起き、日の入りとともに床に就いたのです。そんな時代にアトピーなど皆無です。飽食の時代にあっては、朝食をぬいて余分なカロリーを摂らないことは治癒につながります。

ただし、放課後、あるいは授業が始まる前の早朝、体育系のクラブ活動する生徒や学生、成長盛りの小学校の児童などはまた別です。それだけ多くのカロリーを消費するので、それ相応の食事をしなければいけません。また、この朝食抜きは、アトピー患者さん以外の人は行ってはいけません。特に糖尿病を患っている場合は、朝食はとるべきです。

(2) サウナ

2000年前に中央アジア、あるいはフィンランドで発祥したといわれていますが、それ以来、世界中で解毒と健康のために使われてきました。 17世紀には鉱山労働者の水銀解毒、最近では「Narconon」というアメリカの薬物常用者矯正のための非営利団体が採用しているプログラムにも、 解毒のためにサウナが採用されています。

数千年の歴史をもつインドのアーユルヴェーダ医学でも、砂や石を加熱して遠赤外線を放射させ、それによって体を温め、デトックス(解毒)を行ってきました。 皮膚は、一般成人で1.6平方メートル、重さ3キロ、皮下組織を入れると9キロあまりの巨大な器官です。
皮膚は人体を外界から保護する役目とともに、体内に蓄積された有害物質を汗や皮脂とともに外に排泄するという大切な役割を果たしています。 それは、腎臓の働きにも似ているのです。したがって、サウナを利用しての解毒は非常に効果があるのです。
一般的に汗をだすことは健康にいいのですが、体温調節のためのエクリン汗腺から出される透明な汗では有害物質はほとんど排泄されません。脂腺からでる皮脂でないと効果はないのです。脂腺に脂溶性の有害物質が集まり、皮脂に混じって体外に排泄されるのです。それには、遠赤外線をだすサウナに入るのが最も効率的です。
ジョギングなどの運動によっても汗はでますが、その汗はほとんどエクリン汗腺からのもので、脂腺からのものではないのです。もっとも、家庭にサウナを備えているところが日本には少ないのが難点です。ダニのつかない布団など非常に高額なアトピーグッズに無駄なお金をかけるより、家庭用のサウナを購入したほうがはるかにいいでしょう。
最近はレジャーランドの大衆浴場のほとんどにはサウナが併設されていますから、それを積極的に利用するのも一つの手です。ただアトピーの急性期でジュクジュクとした浸出液がでているほどのときは、刺激が強すぎますから、ひかえてください。

また、過度に頻繁に入るのもかえってよくありません。週に、1~2回が適切でしょう。毎日、毎日、サウナに入っていると、せっかく補ったビタミンやミネラルが汗と共に外に出てしまいます。

3) 腸の洗浄

腸のヒダに垢のようにこびりついた、いわゆる「宿便」といったイメージは間違いです。なぜなら、腸はその蠕動運動によって、便を下方に動かしており、また腸壁は常に剥がれ落ち、新しいものと置き換わっている(ターンオーバー)からです。

しかし、便秘により古い便が溜まっていたり、便秘でなくても異常発酵したものや消化しきれないものがある程度残留しています。そういったものを洗い出すことは、腸内環境を整えるうえに非常に大切で、それがひいてはサプリメントの善玉腸内細菌のところで述べたように、体全体の免疫を正常に調節することに重要な意味をもっています。
日本で最もポピュラーに喧伝されているのは「コーヒー浣腸」です。もともと、がんの代替療法の権威マックス・ゲルソン博士が70年前から治療に取り入れたものです。最もなじみのないものがアーユルヴェーダ医学の各種の薬草や油を混ぜたものを注入するバスティとよばれる「薬剤浣腸法」でしよう。

バスティは当然のことながら、簡易なコーヒー浣腸も最低2、3回は専門家に指導してもらってから行ってください。そうでなければ、常にある程度の危険性がつきまといます。

4) 瀉血(しゃけつ)

瘀血(おけつ)という言葉を一度は聞かれたことはあるでしょう。西洋医学では使いませんが、どろどろとし、濁り、さらさらと流れない滞った血ということですが、いかにも非医学的な表現です。血液は常に流れているもので、それがどろどろとして停滞しているなんて、ウイリアム・ハーベーの血液循環説に反します。

しかし、ぼくも瀉血してもらい、その自分の血を見た瞬間にこれが「瘀血(おけつ)」かと理解できたのです。どろどろとして、暗い紫色をした、見るかに汚い血です。 こういう血が実際にぼくの体内に溜まっているとはとても信じられませんでした。血液検査のために採血するときに出てくる血とは、性状のまったく異なった感じの血です。
釜山にある韓医学専門の病院でのことです。 慶煕大学韓医学部を優秀な成績で卒業し30年のキャリアをもつ院長先生いわく、瀉血法はどんな方法より、速やかに、かつ確実に、しかも大量に体内の有害物質を排毒してくれるそうです。

代替療法を行う医師の間で最近はやりだしたEDTAを使ったキレート療法より効果あるそうです。古代に盛んであったものの、いつの間にか忘れ去られてしまった方法です。
その瀉血を受けてから1週間は体がけっこうきつかったのですが、10日目ごろから急に目の回りの疲労感や、頭になんとなく雲がかかったような重い感覚がすっかり取れてしまい、 非常に体調がいいのです。
日本では、昔、鍼灸師や整体師が、伝統的な治療として行っていましたが、法律で禁止されてしまいました。医師しか行ってはならないようになったのです。

最近、瀉血は肝炎にのみ、行われるようになりました。
肝炎が肝硬変に移行し、さらに肝臓がんへと悪化するのを防ぐ一つの治療として、瀉血がきわだった効果をもつことがわかり実施されるようになりましたが、韓国では医師が積極的にこの治療を取り入れています。

韓国には、伝統的韓医学を行う医師と、普通の西洋医学を行う医師と、2種類の医師が存在します。 大学も2種類あり、韓医学を専門に教える医学部、 日本の医学部と同じような現代医学を教える医学部と二つに分かれているのです。
各々6年間の教育がほどこされます。社会的地位はどちらもほぼ同じです。患者がどちらの医師を選ぶかは、患者の自由選択です。

瀉血の効用について書けば、一冊の大きな本ができてしまいます。おそらく、人類の歴史が始まって以来の治療でしょう。中国でも紀元前に青銅のカップで行われ、古代ギリシアでも、そしてイスラム世界では、牛の角をくりぬいたものを背中にあて、血をすう吸角療法とよばれる治療が千年以上も前に存在しました。

ちかごろ、EDTA、DMSAによるキレーション療法に関する質問が、患者さんからときどきあります。この治療はアンチ・エイジングを標榜する美容整形系のクリニックがよく行っています。しかし、実際のところ、アトピーにはほとんど効いていないようです。瀉血の方がずっとすぐれているというのが、ぼくの正直な感想です。特にステロイド軟膏を止めたときの、いわゆるリバウンドといわれる急な悪化を和らげるのにも効果があります。

5) 旅行(心の解毒)

心の解毒とは奇妙な言葉ですが、ひょっとすると、いや本当のところ、治療にはこれが最も大切なことに違いありません。 アトピーのみならず、すべての病気の原因を、深く、深く、探っていくと、最終的には心の問題にまでたどりつきます。憎悪、恐怖、悔恨、嫉妬、屈辱、悲哀、疎外感など、だれしもある程度はもっているものですが、それが度をすぎて大きくなると、脳の視床下部に悪影響を与えます。
視床下部とは脳の奥深いところにある間脳と呼ばれる領域に存在する、重さ4グラムほどの場所ですが、非常に重要な機能が集中しています。自律神経系の中枢でもあり、内分泌系の上位中枢でもあります。
内分泌系の上位中枢というのは、例えば、コルチコトロピン放出因子(CRF)を視床下部は分泌しますが、それが、脳下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を促し、 それがさらに副腎皮質から、いわゆるステロイドホルモンの分泌を促すように、最上位にあってコントロールしていること意味します。

つまり、「視床下部→脳下垂体→副腎皮質」、「視床下部→脳下垂体→卵巣」、「視床下部→脳下垂体→乳腺」、「視床下部→脳下垂体→甲状腺」、というしシステムがあり、 極めて大切なホルモン系の調節を行っているのです。「アトピーといえばステロイド」というほど、アトピー患者さんにとって関心の深いホルモンが、 このように視床下部でコントロールされていることはしっかりと認識されなければいけません。

そして、その視床下部は感情の影響をたいへん受けやすいのです。いいかえれば、ステロイドホルモンの体内で分泌は最終的には感情によって大きく作用されるのです。
ですから、マイナスの感情を解毒することが、どれだけ大切なことかおわかりになるでしょう。
そこで、どのようにすれば心の解毒ができるかなのですが、瞑想を初めとしたさまざまなテクニックから始まり、高尚な宗教に帰依するまで、いろいろなやり方があるでしょう。
しかし、誰でも行え、確実に効果のあるのは、ぼくは「旅行」だと考えています。むしゃくしゃしていた感情を簡単に晴らすには、どこかに旅に出ることです。
非常によくある例なのですが、旅行に行っている間はまったくアトピー症状が出なかったのに、帰国すると出てくるというケースです。
たった2泊3日でもいいのです。それを定期的に繰り返しているうちに、鬱積していた否定的感情が少しずつ置き換えられていきます。できれば海外旅行の方が効果的です。
隣の韓国や台湾でも文化に違いがあり、それを経験することは一種の驚きであり、その驚きは、新鮮な水がコップによどんでいた濁った水を洗い流すように作用してくれるのです。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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