蚊やダニには十分に注意を!! ライム病という病気をごぞんじでしょうか? マダニに媒介されるスピロヘータの一種の感染によって引き起こされる、人獣共通感染症です。咬まれた箇所を中心にして紅斑があらわれますが、25%〜50%の人にはその紅斑がでず、初期症状が頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などインフルエンザの症状に似ているため、その知識がない場合、ライム病だとは気づかれないことがよくあります。抗生剤で治療されないまま慢性期にいたると、神経症状(髄膜炎や脊髄神経根炎、末梢性顔面神経麻痺)、不整脈、心筋炎、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が現れてきます。つまり、気づかないでいれば、危険な病気なのです。
日本では北海道や長野県に限定されており、数もまだ数百人程度だと推測されていますが、実際のところはわかっていないのが現状です。おそらく原因不明のまま、かなり多くの人がこの病気に悩まされていることがありえます。アメリカでは特に東海岸に多く、年間数万人が発症しているといわれており、深刻な問題となっています。
ライム病治療後症候群(Post-treatment Lyme Disease Syndrome: PTLDS or PLDS)という病状があります。それは、ライム病に感染する前には、何ら自殺傾向のなかった人が、ライム病以後、自殺を企図することがあるということです。アメリカでは、これに起因する自殺が年間1200件起きている可能性があるとされています。もし、北海道や長野県で家族で夏の休暇を過ごした数ヵ月あとに、突然、これという理由なしに、家族の一人が自殺を企図した場合、マダニによるライム病の可能性も疑ってよいかもしれません。普通、精神科や心療内科では、この関連性はまず気づかないでしょう。もっとも、非常にまれなケースだとは思いますが。
それと、マダニはライム病のほかにも重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などのウイルス性疾患を感染させることがあります。消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、神経症状(頭痛、筋肉痛、意識障害、失語)、リンパ節腫脹、皮下出血などをていし、致死率は10 〜30%程度とされています。数は多くはありませんが、国立感染症研究所によると、2018年5月30日現在343人に発症しています。
アトピーを確実に改善する方法が一つあります。湿疹を掻かないことです。掻くと、せっかく健康な皮膚が再生されていても、元も子もなくなってしまいます。したがって、痒いときには、積極的に痒み止めを服用するように患者さんには指導しています。アトピーの痒みは精神力で我慢できるほど生やさしいものではありません。ステロイド軟膏や種々の痒み止めが必要なのです。
冬場は皮膚が乾燥しやすく、乾燥によって痒みが増し、それで悪化する患者さんがけっこうおられます。乾燥による痒みは、蚊に刺されたときに生じる痒みと比べると、大したものではありません。それでも悪化します。したがって、可能なかぎり、蚊にさされないように工夫しなければいけません。
それと、痒みのせいではなく、蚊にさされること、それ自体によって生じる皮膚病が二つあります。ひとつはストロフルス、もう一つは結節性痒疹です。
ストロフルスとは、幼児に発症する、急性の、強い痒みのある丘疹です。インターネットで「ストロフルス」を画像検索されると、よくわかりますように、丘疹の真ん中にぽつんと穴がへこんでいるものが多く見られます。蚊に刺されたあとによく発症しますが、ダニ、シラミ、ブヨに刺されたあとでも発症するようです。
ストロフルスは痒みがひどいので、幼児の場合、掻きむしり、そこから細菌が侵入し、伝染性膿痂疹(いわゆる、「とびひ」)になってしまう危険性もあります。つまり、蚊に刺される → ストロフルス → 伝染性膿痂疹と、ドミノ倒しのように悪化してしまいます。
また、おとなの場合、虫さされから結節性痒疹が発症することがよくあります。「結節性痒疹」のページをお読みください。これをこじらしてしまうと、治療に非常に難儀します。痒みが、悪性リンパ腫の菌状息肉症に次いでひどく、えぐるような痒みで、一種類の痒み止めでは通常足らず、ひどい場合は3種類も必要です。
つまり、アトピーを悪化させ、ストロフルス、結節性痒疹などをひきこす虫刺されは、極力避けなけれいけない一大事なのです。
「PLOS Neglected Tropical Disease」オンライン版に非常に重要な記事が掲載されていました。これは、「かえりみられない熱帯の病気」を中心にした研究を査読して取り上げる科学ジャーナルです。無料でアクセスできます。たとえば、ラオス中部のサワンナケート地方の寄生虫、アフリカのヒストプラスマ症、ボリビアのジカ熱、中国のクリプトコッカス症など、日本に住んでいるかぎり、まず無縁の病気ばかりです。
しかし、Mosquito saliva alone has profound effects on the human immune system (蚊の唾液はヒトの免疫システムに重大な影響を与える)http://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371/journal.pntd.0006439 は、日本人にも深い関係がある研究でした。それは、蚊の「唾液」が、人体に深刻な問題を引き起こすのを、アメリカの研究者たちが見つけだしたことです。蚊が媒介する原虫(マラリア)、ウイルス(日本脳炎、デング熱、黄熱病、チクングニヤ熱、ウエストナイル熱)、寄生虫(フィラリア症)などそのものは当然、その病気を発症させます。しかし、それらの病原体とは関係なく、蚊の「唾液」だけが体内に注入されることによっても、免疫応答とサイトカインの両方が影響を受けるのです。特に、アレルギー反応に関連する2型ヘルパーT細胞(Th2)と、ウイルスに対する免疫応答に関連するTh1細胞が、蚊の「唾液」だけで活性化していることが分かったのです。さらに、血液や皮膚、骨髄などあらゆる組織における免疫反応は、蚊に刺されてから最大で7日間続くことも明らかにされました。興味のある人は英文ですが、お読みください。
これは非常に重要な発見ではないでしょうか。日本国内で蚊に刺されても、日本脳炎やデング熱が流行している時期と場所以外では、通常、私たちは大して気にもかけません。しかし、ひょっとすると、重大な病気の発症のきっかけになっているのかもしれません。あなたがもし乾癬やSLE(全身性紅斑狼瘡)を患っておられ医者にかかられても、医者は「昔、蚊にたくさん刺されたことがありますか?」というような質問は、絶対と言ってよいほど、しないでしょう。あなたも、蚊とご自分の病気が、関連あるとは夢にも思いいたりません。
原因不明の病気はじつに多いものです。特に免疫系に関する病気、たとえば乾癬、関節リウマチ、SLE、皮膚筋炎など。これらの病気がなぜ発症するかは、実のところほとんどわかっていないのです。特に精神的ストレスが重なった時期に、Th2/Th1のバランスが、蚊の唾液によって攪乱された場合の研究など、いまだかつて一度もなされていません。しかし、発症のきっかけとなるものは、必ず存在するわけです。この研究はネッタイシマカの唾液についてのみですが、ブヨ、アブ、ダニ、シラミでも同じようなことが惹起されるかもしれません。先に述べましたストロフルスは、本当のところはよく解明されていませんが、蚊の唾液によってアレルギー反応が惹起されて、症状がおこると通常説明されています。
つまり、ライム病、皮膚病のみならず、あらゆる病気の予防には、虫に刺されないことも、大切なのです。
特に初夏〜初秋、虫よけのスプレーが必要となります。しかし、多くの製品にはディートなる化学物質が含まれています。これはアメリカ軍がジャングル戦の経験に基づき開発したもので、化学名は N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミドです。確かに効果は確実で長時間作用しますが、人によってはアレルギーや肌荒れを起こすことがあり、動物実験で連続的大量摂取により神経毒性が見られたとの報告もあります。つまりできることなら、使いたくない忌避剤です。
そこで、ディートまでは行かなくても、それに近く、しかも人体やペットにも優しい虫よけはできないものだろうかと、一昨年の夏より試行錯誤を繰り返し、ついに完成したのが、「タレジュアウトドア」です。すべての成分は植物性で、月桃葉抽出エキス、タレジュのオイル に含まれているエッセンシャルオイル、レモンユーカリオイル、ハッカオイル、それと植物性醗酵エタノールが30%含まれています。エタノールは、油であるエッセンシャルオイルと、水の月桃葉抽出を混ぜるために、必要不可欠なのです。沖縄のスタッフがやぶに入り、自ら蚊にくわれながら人体実験を繰り返し、本当に効果のある配合を決定してつくりました。牧瀬クリニックの自信作です。
それと、野山に行くときには、必ず長袖と長ズボンを着用してください。マダニは足や足首の周りにつかまり、体を這っていくことがありますから、ズボンは靴下の中に入れてください。また、蚊やブヨに刺されたり、ダニに咬まれたりして、何かあやしいと気づいたときは、すぐに抗生剤を念のために2週間ほど服用することです。
「参考」Medical Tribune 2024年10月7日の記事より引用
ダニ媒介性脳炎、全国に拡大の懸念 北海道以外でも感染が判明
日本初となる成人および小児におけるダニ媒介性脳炎の発症を予防する組織培養不活化ダニ媒介性脳炎(TBE)ワクチン(商品名タイコバック水性懸濁筋注0.5mL、同小児用水性懸濁筋注0.25mL)が今年(2024年)9月に発売された。製造販売元のファイザーは9月24日にメディアセミナーを開催し、登壇した新潟市民病院総合心療内科副部長の児玉文宏氏と、おひげせんせいのこどもクリニック(札幌市)院長の米川元晴氏は「国内では北海道で感染例が報告されているが、道外や海外でも感染する恐れがある」と述べ、ワクチン接種の重要性を訴えた(関連記事「ダニ媒介性脳炎発症予防ワクチン、タイコバック発売」)。
北海道で致死率の高いタイプ
TBEはTBEウイルス(TBEV)を保有するマダニによる刺咬の他、ヤギ生乳の摂取、臓器移植などを介して感染する。欧州やロシア、アジアを中心に毎年1万例前後が発生している。国内では北海道で感染例が報告されており、ヤマトダニの0.05~0.33%がTBEVを保有しているという(J Gen Virol 2020; 101: 497-509)。
経過は感染したウイルスの亜種によって異なり、70~98%は不顕性だが、極東亜型ウイルス感染例は一部が感染後1、2週間程度で発熱、頭痛、嘔吐といった髄膜炎症状から脳脊髄炎症状などに進展し、中枢神経症状(精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺)を呈することもある。極東亜型ウイルス感染症の致死率は20%以上と高く、30~40%に神経学的後遺症が残るものの、これまで有効な薬物療法はなく対症療法が基本だった(J Gen Virol 2020; 101: 497-509、Lancet 2008; 371: 1861-1871)。
北海道では2018年までにTBEの報告が5件あったが、今年6、7月に札幌市と函館市で6例目、7例目が発生した。さらに昨年発表された研究では、原因不明の脳髄膜炎と診断されていた北海道外の患者520例の血液を後ろ向きに観察したところ、2例(東京都、大分県)でTBEV感染が、1例(岡山県)で既感染が判明した(Emerg Microbes Infect 2023; 12: 2278898)。長崎県を含む複数地域でもTBEV抗体陽性のイノシシなどの動物が発見されており(Ticks Tick Borne Dis 2022; 13: 101860)、児玉氏は「国内では診断に至っていないTBEV症例が存在し、道外にも患者がいる可能性がある」と指摘した。
散歩やガーデニングにもリスク
マダニは野生動物の生息域をはじめ、草むらや民家の庭、畑などにも生息しており、3~11月に活動が活発化する。山菜採りや農作業、ガーデニング、キャンプ、ハイキング、野外での観光、イヌの散歩、ゴルフ、芝生での日光浴などの際に刺咬リスクがある。
対策としては、野外ではシャツの袖口を軍手や手袋に入れる、首にタオルを巻いたりハイネックの服を着たりする、ズボンの裾を靴下や長靴で覆うなどして、肌の露出を少なくした上で、忌避剤を使用する。しかし、「特に暑い季節に十分な対策が行えるかは疑問」と米川氏は懸念を示し、「リスクのある場所に行く場合は、TBEワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけた。