女性の壮年期後半から老年期にかけて特に卵巣機能が低下し、やがて生理が止まります。その前後には、のぼせ、顔面紅潮、発汗、不眠、イライラ、頭痛、性交痛、腰痛、肩こりなどの不定愁訴がおこりがちです。
また、心血管系の病気が急に増加し、骨粗鬆症にもなりやすくなります。傷がなかなか治りにくくなるのもこの時期です。また、エストロゲン不足は、女性をしてNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)にかかりやすくさせます。それが、悪化してNASH(非アルコール性脂肪肝炎) →肝硬変→肝がんと進行していく危険性さえあるのです。
卵巣機能衰退が、内分泌系および自律神経系中枢をコントロールする視床下部を中心に影響を与え、下垂体および抹消標的臓器、自律神経系調節機構、 さらに、大脳辺縁系からの影響との間の均衡に破綻を生じさせ、そのような不定愁訴や症状がおこるものと考えられます。
しかも、味噌や豆腐といった大豆を使った食事が多かった昔の日本女性には少なかったのですが、食生活、ライフスタイルの欧米化と共に、症状が深刻になってきています。
以前は症状そのものが軽かったせいもあり、医者からも気のせいだと言われ、そのまま放置されてきたことが非常に多かったのです。 しかし最近は医者も積極的にHRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)をすすめるようになってきました。なぜなら、けっこうな収入につながるからです。
しかし、普通の婦人科医がすすめるHRT(ホルモン補充療法)の薬は、妊娠した馬の尿からつくった、似非ヒト女性ホルモン(エストロゲン)です。このウマのエストロゲンは、ある程度ヒトの自然なエストロゲンと同じなので、それなりの役目を果たします。 しかし、ヒトはウマのエストロゲンを肝臓で十分に代謝することができず、 体外に出ていく時間が異常に長くなったりして、脂肪組織に蓄積するような事態がおこります。そこで必要以上に強力な作用を示すのです。
また、ウマのエストロゲンの一つエキリンから代謝されて出てくる17-β-ディハイドロエキリンは、エキリンそのものより8倍も作用が強く、子宮内膜を肥厚させます。 その最悪の帰結が子宮体がんです。一年以上とると子宮体がんの発生率が14%も高まると言われています。
そこで、プロゲステロンを補うことによって、子宮体がんの発生を防ごうとするのですが、これもまた、自然な形のプロゲステロンではない人工擬似プロゲステロンであり、 今度は乳がんの発生率が高まってしまいます。肺がんの発生率も2倍になります。
こうなると、がんの危険性と、更年期や更年期以降に生じる様々な症状緩和とのバーター取引になってしまいます。
人体のホルモンバランスはきわめて巧妙にできています。 女性ホルモンに関しては、視床下部⇔脳下垂体⇔卵巣・黄体が密接にフィードバックしながら、微妙な調整を24時間休むことなく行なっています。
そこに、ウマのエキリンのような異質なホルモンが入ってくると、どのように乱されるか。ちょうど、トヨタの車体に、キャデラックのパーツを取り付けるようなもので、 うまくいかないのはどんな素人が見ても明らかでしょう。それと同じようなことを、現代の医者は繊細な女性の体に行なっているわけです。
エストロゲンと一言でいいますが、ヒトの場合、主にエストロン、エストラジオール、エストリオールといった三種の女性ホルモンが、各々10%~20%、10%~20%、 60%~80%の割合で混ざっています。
しかし、例えば日本で処方される医薬品のエストロゲンは、エストロンが75%~80%、エクイリン(妊娠メスウマの尿中に存在する結晶性卵胞ホルモン)が6%~15%、 その他が5%~19%で、ヒトのエストロゲンと内容は非常に違ったものなのです。
つまり、医薬品のエストロゲンの場合、エストロンの比率が際立って高いのです。 こういった物質が長年にわたって体内に摂取されると、実に様々な副作用が生じてくることは、素人が考えてもわかるはずです。 頭痛、不眠、うつ、体重増加、胆石、乳房の圧痛、膣出血、浮腫、高血圧、血栓、吐き気、足の引きつり、嘔吐、糖尿病、子宮内膜症、子宮体がんなど多彩な副作用がおこりやすくなります。
更年期障害のひどい女性が日本よりはるかに多いアメリカでは、ヒトのプロゲステロンとまったく同じ構造のプロゲステロン(これを bio-identical progesterone と呼びます) を含むクリームをつくり、それを皮膚から吸収させるよう、代替療法を行う医者たちは、患者さんにすすめています。 図を見るとおわかりのように、プロゲステロンからエストロゲン(エストロン、エストラジオール、エストリオール)が代謝されてきます。
ここで、男性ホルモンの代表であるテストステロンもできることに注意を払って下さい。
女性にテストステロン? かえってよくないのじゃない? という疑問がでてくるのは当然です。ところが、実は女性にもテストステロンは必要なホルモンなのです。 もちろん、過剰に存在すれば、男性化がおこり、声が低く、太くなったり、毛が濃くなったりしますが、テストステロンは心血管系の病気の予防、コレステロール降下作用、 また意欲や性欲を高めたり、骨を丈夫にしたりする作用もあるのです。必ず女性にも存在しなければいけないホルモンです。
もし、あなたが40才代であれば、20代のときと比べて約半分、そして、閉経後であればさらにその半分にまでテストステロンは低下しています。 そのために最も顕著に現れる症状がうつです。しかも、このテストステロン低下によるうつに、非常にしばしば抗うつ剤が投与され、事態をますます複雑に悪化させます。 こういう場合、適度に性ホルモンを補充すればいいのです。しかし、この「適度」がかなり難しいのです。
bio-identical である性ホルモンによる代替療法がすすんでいるアメリカでは、尿中の性ホルモンの量を測定し、テーラーメイドで、 調剤薬局で個人に合わせたホルモン製剤を調合できるのですが、日本ではそれができません。この点、日本は悲惨な状態なのです。 その悲惨な実態を多くの女性が知らず、馬の尿からできた疑似エストロゲンを補充され続けているのです。
そこで、以前は、私のクリニックでは、人のプロゲステロンとまったく同じ構造をもつプロゲステロン(bio-identical progesterone) を含有するクリームをアメリカから取り寄せ、 患者さんにお分けするようにしていました。 しかし、皮膚からの吸収であることと、各個人の正確なホルモンの状態がなかなか把握しにくいことより、どのくらいの量を塗ればいいのか、非常に指導しにくいので、現在は処方していません。 昔のウェブページがまだ、残っているようで、今でもプロゲステロン・クリームについての処方の依頼が、患者さんから来ますが、以上の理由から、お断りしています。
それに代わり、「月桃」を中心としたサプリメントを処方しています。 この場合、月桃のもつアダプトジェニックな作用によって、自然にホルモンが調整されるようで、プロゲステロン・クリームなど使わなくて十分に更年期障害が改善されます。
「アダププトジェニック」の適切な日本語訳がないのですが、しいて訳せば、「適応性のある調整作用をもつ」とでもなるでしょうか。 つまり、たとえば、あるホルモンの量が多すぎれば、下げ、少なすぎれば、上げるといように作用するということです。 血圧が高すぎれば低くし、低すぎれば高くし、常に人体にとって最も良い状態に、調整してくれます。
たしかに、ノルウェー・トウヒやブラックコホッシュも更年期障害には役にたちます。しかし、使い方がけっこう難しいので、素人判断でのむようなことは避けられたほう無難です。 特に後者は長期に摂ると、肝機能障害をおこす危険性があります。
更年期障害に対する効果的で安全なサプリメントを希望される人は、ドクターズ・サプリメントの「更年期対策セット」を試されても良いでしょう。症状がそれほどひどくなければ、これで十分な場合が多いものです。
また、瀉血もいいでしょう。漢方医学や韓医学の観点から見れば、「瘀血(おけつ)」も更年期障害に深く関係しています。 「瘀血」とは、どろどろとし、濁り、さらさらと流れない滞った血液の状態ととらえられたらいいでしょう。
この言葉自体、現代医学、つまり西洋医学の教科書には載っておりませんが、何も西洋医学だけ、医学ではありません。現に普通の西洋医学では治りが悪いので、 このサイトをご覧になっている方も大勢いるはずです。詳しくは「瀉血療法」のところも、お読みください。
ヒト胎盤エキス(ブタやウマの胎盤ではありません)
これも更年期障害に効果があります。しかも、健康保険が使えることがありますから、うまく利用されるといいでしょう。 また、経口的にのむための、ヒト胎盤エキスも、いちいち注射をうちに病院に行くのが面倒であるという人には重宝です。しかし、これは健康保険がききません。
漢方薬
漢方薬は婦人科の医者が最も多くつかいます。体質にあった漢方薬が処方された場合、非常に効果があるからです。ただ、うまく、漢方を処方する医者を見つけるのが難しいのです。
注意
日本の病院やクリニックですすめられるホルモン補充療法に使われる似非エストロゲンにせよ、プロゲステロン・クリームから代謝されてできるエストロゲンにせよ、 余分なエストロゲンはサイロキシン結合グロブリン(TBG)を増加させます。 TBGは、血流中を自由にめぐっていた甲状腺ホルモンを吸収し、結合してしまうタンパク質ですから、たとえ甲状腺機能が正常であっても、甲状腺ホルモンの働き自体は減少してしまいます。
そこで、体重増加、皮膚の乾燥、疲労感、便秘、うつなどがおきてくるのです。 したがって、もしあなたがホルモン補充療法を受けているにもかかわらず、肥満や慢性的な疲労が続くのであれば、ごくわずかでいいですから、甲状腺ホルモンを補うことが必要です。 しかし、これは医者の指導のもとで行わなければ危険です。
ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい
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