甲状腺ならび副甲状腺は、必要不可欠なホルモン器官なのに、どういうわけか、ないがしろにされています。副甲状腺は甲状腺の裏側に四つくっついている米粒大のホルモン分泌器官です。1877年にスウェーデンの医学生が発見しました。それまでは、おそらく、脂肪の塊くらいにしか考えられていなかったのかもしません。
しかし、この米粒大の器官は、人体にとってきわめて重要な役目を果たします。カルシウムとリンイオンの調整を行う、最重要器官なのです。生命は海で発生し、進化とともに陸に上がってきたと考えられています。水中と違って、陸では浮力を失い、体を支えるために強い骨格を必要とします。また、海水に多く含まれているカルシウムを失ったために、その貯蔵庫として骨が発達し、カルシウムを保持するメカニズムができあがってきたのです。
逆に、リンは海水にはほとんど含まれておらず、陸の土中には大量に含まれています。したがって、植物にも多く含まれ、それを食べる地上に上がった哺乳動物は、リンもうまくコントロールしなければいけないようになりました。特にヒトの体内では、リンは自然界に存在する割合以上に存在します。
カルシウムは骨、歯の形成、神経の興奮、筋肉の収縮、血液の凝固、細胞の刺激伝導に関係し、リンは生物のエネルギー通貨とし最も重要な役目を果たすATPを構成するために必要不可欠です。
そのカルシウムとリンをコントロールするのが副甲状腺から分泌される、副甲状腺ホルモンで、PTH(パラソルモン)と呼ばれる、84個のアミノ酸からなるペプチドホルモンです。
それが、異常に多く分泌されると(副甲状腺機能亢進症)、高カルシウム血症・低リン血症になり、異常に少ないと(副甲状腺機能低下症)、低カルシウム血症・高リン血症になります。 次のように、いずれもさまざま不調が体に発現します。
PTH分泌過多の場合:赤目、角膜石灰化、不整脈、高血圧、膵炎、腎結石、尿路結石、筋力低下、精神不穏、うつ、認知障害、嘔気、嘔吐、便秘、食欲不振、腹痛、消化性潰瘍、骨痛、多飲、口渇。
PTH分泌過少の場合:白内障(慢性)、骨痛、不整脈、低血圧、悪心、嘔吐、下痢、気分の変化、不穏、興奮、イライラ感、てんかん、筋肉の痙攣、ツッパリ感、テタニー、 しびれ、知覚異常、皮膚の乾燥、搔痒感。
しかし、これでおわかりのように、これらの症状は、副甲状腺機能異常に特異的なものではありません。症状が軽度の場合、ばくぜんとした体調不良ですまされます。ここが、問題なのです。
激しい痙攣、てんかん、精神の昏迷、嘔吐、下痢などといった顕著な症状がある場合、副甲状腺機能低下も医者の念頭をよぎるのですが。 これが、「口のまわりの、ピクピクとした違和感」、「ピンやハリで、つつかれたような、皮膚とか筋肉の痛み」、「下肢に点状出血」、「最近、疲れやすい」、「足がひきつる」、 「不眠」、「うつ的」、「骨が少し痛む」、「不整脈」、「白内障」、「腎・尿路結石」、「皮膚の痒み」といった症状の場合、まず医者は副甲状腺の異常には注意を払いません。
“骨が痛い時がある”となると、骨粗鬆症を疑われ、本当は副甲状腺機能亢進症でカルシウム過多の状態なのに、カルシウムを処方されることさえあります。 これでは、もっと骨が痛みだします。「不眠」ともなると、詳しい検査など何一つされず、睡眠導入剤を処方されることがしばしばあります。
カルシウムが過少のときには、心電図ではQTc延長、逆に過多の場合は、QTc短縮という特異的な波形を示しますが、「口のまわりの、ピクピクとした違和感」を患者が訴えたとしても、 心電図をとってみようと思いつく医者はまずいません。たいてい、「気のせいか」、「自律神経失調症」、せいぜい「更年期障害のはじまり」くらいにされてしまいます。
つまり、副甲状腺機能の異常は、きわめて見逃されやすい疾患なのです。
非常に軽度なものまで含めると、おそらく、少なくとも日本人の5%、つまり20人に1人くらいは、いるかもしれません。先に述べた「隠れ甲状腺機能低下症」よりも少ないでしょうが、かなりの人が患っているはずなのです。

「うつ」ともなると、悲惨です。高カルシウムの場合、ナトリウムチャンネルがカルシウムによってブロックされ、細胞膜での脱分極がうまくいかず、神経伝達もうまくいきません。そこで、脳の調子がおかしくなって、うつが発生します。単に、カルシウムイオンを是正すれば、簡単に治るのに、抗うつ剤を重ねられ、最終的に社会から脱落する人がなんと多いことか!! これは典型的な医原病です。うつ病と診断されている患者にも、けっこう副甲状腺機能亢進の状態の人がいそうです。精神科や心療内科の医者は、ぜひとも患者の副甲状腺の機能をチェックしていただきたいものです。

私はいまだかつて、抗うつ剤を処方したことは一度もありません。自律神経失調症、慢性疲労症候群などといった病名もつけたことがありません。こういう病名をつけ、薬を処方する前に、何らかのイオンバランスやホルモンバランスの異常、医薬品の副作用、アレルギー、余計なサプリメントの摂取、骨格のゆがみ、腎機能の低下、ウイルス・バクテリアの影響、 血の滞り、有害物質の蓄積、などを調べるべきなのです。

患者の方から、原因のわからない症状に悩んでいる場合、積極的に副甲状腺の検査をしてくれるよう医療機関に頼んでください。

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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