これは、フラックスシードオイル、エゴマオイル、サチャインチオイル、魚油などに多く含まれており、体内では合成されません。
オメガ3系の不飽和脂肪酸は動脈の弾性を維持するには必須です。また良性エイコサノイド(詳しくは、現代の病気を解く6つのキーワード・炎症とエイコサノイドのページをお読みください)産生を促し、悪性エイコサノイド産生を抑制しますから、それによっても、血圧を下げてくれます。それに、オメガ3は、血液中の一酸化窒素(NO)の濃度を増やすことによって、動脈を弛緩させ血圧を下げてくれる作用もあります。また、オメガ3のDHAとEPAは、後述するアディポネクチンの産生も促します。
こういった複数の作用機序によって10~15%ほどの降圧効果があります。
心・血管系を健康にたもつには、オメガ3不飽和脂肪酸のなかでも、特にDHAとEPAが必要です。DHA は中性脂肪も減らしてくれます。中性脂肪が増えるとLDLコレステロールの粒子が小さくなり、これは動脈硬化を起こしやすくします。EPAはHDLコレステロールが善玉の役目を果たすのに必要です。
植物性のフラックスシードオイル、エゴマオイル、サチャインチオイルに多く含まれているα-リノレン酸からDHAとEPAが代謝されてきます。しかし、α-リノレン酸の7~8%ですから、わずかです。魚油のほうにはるかに多く含まれています。
最近、私は患者さんにクリル(Krill)オイルをすすめています。クリルの和名はオキアミです。体長3 ~6 cmの小さな甲殻類、つまりエビの一種です。魚油に関しては、海洋の汚染物質をふくんでいるから粗悪な製品を使わないよう注意と、よくいわれますが、その点、特に南極オキアミの場合、クリーン度は優れています。また、食物連鎖がクリルオイルの方が、魚油より短いので、さらに安全です。つまり、クリルオイルは「植物性プランクトン → オキアミ → クリルオイル」、魚油は「植物性プランクト → 動物性プランクト → 小魚 → 大きな魚 →魚油」で、オキアミの方は途中で余分な経路がないので、それだけ純度が高いといえるわけです。
しかも、クリルオイルのDHAとEPAはリン脂質と結合しているため、水にも溶け込み、吸収されやすいのです。さらに、アスタキサンチン(後述)も含まれていますから、いっそう効果的です。アスタキサンチンは写真に見える赤い色素です。ただ、難点は、クリルオイルは魚油より値段が高いということです。しかし、それでも価値はあります。
また、魚油に特有の魚の生臭さがクリルオイルのばあいほとんど無く、のみやすいことも利点です。もっとも、アメリカ製のクリルオイルはカプセルが薄いので、魚油ほど生臭さはありませんが、やはり臭います。
*しかし、エビやカニにアレルギーがある人は、ふつうの魚油が無難でしょう。
また、タテゴトアザラシの油も優れています。もともと、オメガ3不飽和脂肪酸が心・血管系の病気予防に効果があるという発見は、アザラシを食べるグリーンランドのエスキモーに心・血管系の病気が少ないという事実を、デンマークの研究者が見つけ出したことに始まります。したがって、タテゴトアザラシの油は、元祖ともいえるわけです。しかし、動物愛護団体から反撥を買いそうですね。
ロトリガという医薬品があります。これはDHA/EPAが一袋に2g入っています。もし、医者にかかっておられるなら、これを処方してもらえないか、たずねられると良いでしょう。健康保険が使えれば、魚油やクリルオイルのサプリメントより安価です。
オメガ3不飽和脂肪酸のサプリメントは食後すぐに摂ってください。食事の刺激によって分泌される膵リパーゼの1種であるコレステロールエステラーゼにより分解されたEPA とDHA が、胆汁酸とともに小腸から吸収されます。つまり、食事による刺激がなければ、せっかく服用したDHA/EPAが十分に吸収されないことになります。
人によって魚油は、お腹をゆるくすることがありますので、注意してください。おならが非常に臭くなると訴える人も、たまにおられます。そういう場合、クリルオイルかタテゴトアザラシの油を試してください。
∗オメガ3不飽和脂肪酸の専門家は、当然、下記の2つの論文をお読みになっておられ、オメガ3不飽和脂肪酸の効果について疑問を感じられている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらの論文も承知の上に、オメガ3不飽和脂肪酸には降圧効果があると、私は書いております。これらの研究には欠陥があるのですが、ここではそれについて論じません。
Effects of n-3 Fatty Acid Supplements in Diabetes Mellitus.
N Engl J Med. 2018 Oct 18;379(16):1540-1550.Associations of Omega-3 Fatty Acid Supplement Use With Cardiovascular Disease Risks: Meta-analysis of 10 Trials Involving 77 917 Individuals.
JAMA Cardiol. 2018 Mar 1;3(3):225-234.
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