最近、健康雑誌のみならず、新聞にもみかける言葉です。肥満、高脂血症、高血圧、高血糖などをあわせもつ状態をいい、厳密な定義は国により少し違ってきますが、日本では

  1. 男性でへそ周りのウエストが85cm以上、女性で90cm以上。まず、1の条件をみたし、次の2~4のうち少なくとも二項目をみたすと、メタボリックシンドロームであると定義されています 。

  2. 中性脂肪値が150mg/dl以上。または、HDLコレステロールが40mg/dl未満

  3. 収縮期血圧が130mmHg以上。または拡張期血圧が85mmHg以上

  4. 空腹時の血糖値が110mg/dl以上

これら四つの条件をすべて満たす場合は特に死の四重奏ともいいます。以上のファクターの一つだけでも、心・血管系の病気のリスクが高いのですが、それらが重なってくるとリスクはもっと高くなります。
と、かなり、深刻そうに書いてしまいましたが、要は中年太りのオジサン、オバサンをいうわけで、昔からあったのです。
そして、「おい、おい、まってよ、この基準だったら、俺も、アタシもメタボだよ」という声が聞こえそうです。
まさに、そのとおりで、中年のオジサン、オバサンの多くの人が「メタボリックシンドローム」になり、最近、中学生でも知っているほどの言葉になってしまいました。

この4つの基準をつくりあげるにあたり、過去の膨大な臨床例を集め分析し総合するためのコンピュータが不可欠だったと察せられます。最初、私はこの基準にかなり疑問を感じていましたが、かなり有用性の高いものだと考えるようになりました。
特に、「空腹時の血糖値が110mg/dl以上」は重要です。糖尿病予備軍を含めると、血糖値に問題のある人は、日本の全人口の15~16%にものぼりますので、今後、この基準はますます重みをましてくるでしょう。
今後、超速のスーパー・コンピュータ「富岳」なども使われると、もっと的確な診断基準ができてくると予想されます。

肥満度を表すのに最も頻繁に使われているのは、BMI(Body Mass Index)です。
BMI= 体重(kg)÷[身長(メートル)×身長(メートル)]

例えば、体重70kg、身長170センチであれば、BMI=70÷[1.7×1.7]=24.22となります。

日本人の場合、18.5以下を痩せ、18.5~25未満を標準、25~30未満を肥満、30以上を高度肥満とします。アメリカの統計などを参考にすると、BMIが35以上の人では急激に死亡率が高まります。したがって、それが危険なまでの肥満と考えていいでしょう。

BMIが35というのは、身長170センチの人であれば体重100kgくらいで、身長160センチであれば体重90kgです。要するに90kg~100kg以上の人は、注意しなければいけないということです。このような危険なまでの肥満の原因で、多いのが、男女とも、ホルモンのバランスの崩れです。その典型が更年期です。

更年期といえば女性だけのようにきこえるかもしれませんが、男性だって更年期はあるのです。ようするに特に性ホルモンのバランスが変化する時期ということなのです。男性ではテストステロンの減少、女性であればエストロゲンの減少が肥満に大きく影響してきます。

したがって、性ホルモンを補えば、肥満も改善されるわけですが(いわゆるホルモン補充療法)、更年期そのものは異常なことではなく、ヒトという生物が老いていく過程に不可避的におこる現象ですから、それをことさら人為的にホルモンを補充して、回避しようというのは、かなりの熟考が必要でしょう。しかし、危険なまでの過度の肥満が、性ホルモンバランスの異常な乱れによっておこっている場合は、対処しなければいけません。これは医師の指導のもとで行われるべきものです。

それと、男女とも、甲状腺ホルモンが低下した場合にも、肥満がおきてきます。「隠れ甲状腺機能低下症」のぺージもお読みください。

また、危険なまでの肥満ではなく、「チョイ太」から「ヤヤ太」、せいぜい「かなり太」までの、「メタボ太」も改善できればそれにこしたことはありません。

最初の方で、「要は中年太りのオジサン、オバサンをいうわけで」と、少し揶揄ぎみに書きましたが、やはりスリムであることは、特に「死の4重奏」の場合、非常に大切です。

ここに私の患者さんの具体例をあげましょう。男性64才。身長167㎝、体重72kg。この10年間、下記の数値が続いていました。

  1. 腹囲ははかっていませんが、見た目で、すでに腹は十分にでていますので、へそ周りのウエストはゆうに85cm以上はあると推測されます。

  2. 中性脂肪 220~330mg/dl

  3. 血圧 135~140mmHg/80~95mmHg

  4. 空腹時の血糖値が115mg~119mg/dl

63才まで絶好調だったのですが、64才の誕生日に左胸の軽い違和感を覚えたため、念のために心電図をとったところ、虚血性心疾患を疑わせるST下降が見られました。すぐに総合病院の循環器内科で精査するように勧めました。造影剤を入れて、冠動脈のCTスキャンを行った結果、右冠動脈の中央部と左冠動脈の近位部に、軽い狭窄と石灰化が見つかり、ステントを入れるほどまではないが、厳重注意となりました。この状態があと3、4年続くと、狭心症・心筋梗塞をおこしたかもしれません。
メタボリックシンドロームの診断基準の一つでも、けっこう体に悪い影響を与えますから、4つも重なり、それが10年以上続くと、まさに「死の四重奏」になりそうです。

この「メタボ太」の一番の理由は何と言っても、食事です。油に満ち満ちた、西洋料理の侵入です。その典型がアメリカのピマ・インデアン(地区によっては7割が肥満)や、ミクロネシアのコスラエ島(肥満率33.2%)、マーシャル諸島(肥満率42.5%)の住民たちです。(ちなみに、日本人は3.5%)。

西洋文明の突然の移入により、彼らの伝統的な生活習慣と食事が破壊され、急激に肥満、糖尿病、高血圧が増え始め、寿命が縮まっています。
2014年の1月2日よりマーシャル諸島に行ってきました。その小さな独立国の首都に一つだけある総合病院には、なんと糖尿病専科かあるのです。なぜなら、今、その島では糖尿病が急に増えているからです。
また、がんのない村で有名だった、パキスタンのインダス川上流、カラコルム山脈の麓に位置するフンザにもがん、糖尿病が発生し始めています(2005年4月下旬、アプリコットの満開の季節、私はこの村に数日滞在し現地調査を行いました)。写真の桜のように写っているのは、アプリコットです

※画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

また、2008年、インドネシアのボルネオ島の北部に位置するブルネイという小さな国に行きました。美しい回教国です。
石油が豊富に出るため、所得税はなし、医療も教育もまったく無料という、日本人から見ればうらやましいかぎりの国です。もし、国民が自国で受けることができないような高度の手術を、たとえばオーストラリアの病院で受ける場合、オーストラリアの病院が請求する治療費、入院費だけでなく、飛行機代なども、ブルネイ政府が出してくれるという素晴らしい福祉国家です。
ところが、ここで急速に問題になりつつことがあります。
それは肥満です。ブルネイ王室付属病院の栄養士と話したところ、ブルネイ国民の肥満は、世界最高のスピードで増加しているというたいへん不名誉な事態だそうです。
その理由は、ジャンクフードへの耽溺、石油の産出国であるがゆえにただに近いほど安いガソリンがもたらす車社会、あくせく働く必要がない豊かなストレス・フリーの生活、こういうものが重なりあい、ブルネイ国民は恐ろしい速度で太りだしてきたのです。この現象を疫学では「新世界症候群」と表現します。
巨大な西洋文明の野放図の拡大によって、各地方によって個性的であった本来の食事内容も、獣肉を中心とし、油を多く使ったメインディッシュと、コーンシロップや白砂糖を過剰に使った清涼飲料水へと、十把ひとからげに激変していったのです。そして、自動車の普及で人々は歩かなくなった。その帰結が「新世界症候群」なのです。

現在、私たちの日常生活で、明日の食料をどう調達すればいいかと思い煩うことは、よほど経済的に困窮していないかぎり、まずありえません。腹が減れば夜中の3時でも、コンビニで弁当が買えます。しかし、万単位どころか数千年の昔ですら、明日の食事が最大の問題だったのです。

したがって、明日にでも食料が入手できなくなることを常に予想し、今日の食料から得たエネルギーの余剰を保存しておくシステムが体に備わったのです。それには内臓脂肪として蓄えるのが最も効率的で、つまるところ、太らせるということに他ならないのです。

特にモンゴロイド系の日本人の祖先は、何万年も前から厳しい飢餓にさらされてきたため、余ったエネルギーを脂肪のかたちで効率よく蓄えるために、遺伝子の変異をおこしました。この遺伝子を「倹約遺伝子」とよびます。代表的なのは、β3アドレナリン受容体やUCP1の遺伝子の変異です。これらは脂肪細胞中に存在する脂肪を、熱に変換させるために重要な働きを行います。変異がある場合、脂肪を熱に変換する効率が落ち、年間5キロ~15キロ太りやすくなります。こういう「倹約遺伝子」は日本人の3人から4人に一人は有しています。

そこに、脂肪が多い西洋的食事が流れ込んできたものだから、さあ、たいへんです。普通、和食は脂肪がおよそ8%で、洋食は脂肪がおよそ30%です。8%の脂肪に適応する倹約遺伝子をもっていた人間に、30%の脂肪がやってきて、これで内臓脂肪がたまらないわけはないのです。
この新世界症候群に対する、私たち日本人の対処は、簡単です。和食に戻るということにつきます。現在、最も健康にいいとされている食事は、「和食」と、「地中海の食事」です。両方とも海産物と野菜が豊富です。海産物からヨードとオメガ3系統の不飽和脂肪酸、野菜から数々の抗酸化物質が補えるからです。しかし、和食と言っても、丼(どんぶり)ものはいけません。ご飯が多すぎます。炭水化物も代謝されて、結局は脂肪となり蓄積されます。安物の「回転寿司」はシャリ (ご飯)が多すぎてネタが少ないので、これも良くない。ついつい皿を積み上げていき、知らないうちに大量の炭水化物を摂っていることになります。幕の内弁当的なのが一番良いのです。
しかし、いったん脂肪の多い食事に慣れてしまうと、なかなかもとにはもどりません。「脂」という字を良く見てください。左の「月」は肉月で、右の「旨」は、なんと「うまい」ではありませんか。つまり脂肪はヒトにとって旨くて、美味しいのです。
したがって、どうしても脂肪を摂りすぎ、内臓脂肪が増えてきます。すると、アディポネクチンの分泌が減り、糖尿病、動脈硬化、高血圧、がんへと進んでいくのです。これがメタボリック症候群への最短距離なのです。
ここでアディポネクチンという言葉でてきましたので、簡単に説明しておきます。これは脂肪組織から分泌される一種のホルモンです。1996年に大阪大学で発見されました。「アディポ」とは脂肪を、「ネクチン」は接着という意味で、血管壁などにくっつきやすい性質があるからです。しかし、くっつくといっても、血管壁の傷を修復するためにくっつくのであって、いい効果をもたらすわけです。つまり、善玉なのです。
なぜ、善玉かというと、インスリン抵抗性を減らす(つまり糖尿病の改善)、動脈硬化を予防する、高血圧も改善する、がんも予防するからです。血中のアディポネクチン値が高い人は長寿です。また、平均して、女性の方が男性よりも、血中アディポネクチンの量は多いのです。女性が男性より長生きであるのは、このことにもよるかもしれません。
アディポネクチンとメタボリックシンドロームは逆関係です。アディポネクチンが増えてくると、メタボリックシンドロームも改善されます。メタボリックシンドロームで問題なのは内臓脂肪です。これを減らしてくれるのが、アディポネクチンなのです。そのアディポネクチンを増やしてくれるのに非常に有効な植物がアシタバです。アシタバに含まれている二つのカルコン( キサントアンゲロール、4-ヒドロキシデリシン)が大きな役目をはたしてくれます。
そこで、このアシタバ・カルコンに、フコキサンチンとサクラの花エキスを足したサプリメントを私がつくりました。製品名はアシタバ・カルコン・ジャポニカです。また、ドクターズ・メガ・グリーンジュース も良いでしょう。
月桃、アシタバ、桑の葉、アガベイヌリンなどが入っており、特に牛乳に溶かして飲むと非常に美味しい青汁です。

アディポネクチンを増やすには禁煙が大切です。喫煙はアディポネクチンを確実に減らします。タバコを吸わなければ、食欲がまし、どうしても肥満気味になるという人はけっこういます。 しかし、それでも、タバコは止めるべきです。

また、豆腐、アロエ、杜仲茶などにはアディポネクチンを増やす効果が認められています。 大豆に含まれているβ-コングリシニンという、アディポネクチンを増やすタンパク質は、豆腐に最も多く含まれています。毎日、毎日、豆乳をのむというような大豆のとりすぎは甲状腺に悪影響を及ぼしますが、適量の豆腐はすすめられます。もっとも、週に3度ほど、豆腐を一丁食べたからといって、メタボリックシンドロームが解消されるわけではありません。ただ、同じ食事をするなら、という意味合いです。
アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):もし、あなたが高血圧のためにすでに降圧剤を服用されており、かつメタボリックシンドロームと診断されておられるなら、その降圧剤はARBにしてください。降圧剤には様々な種類がありますが、そのなかでもARBはアディポネクチンを増やす働きが認められています。ブロプレス、ニューロタン、ディオバン、ミカルディス、オルメテックなどが商品名です。

昔は、7-Keto-DHEAなどをメタボリックシンドロームにすすめていましたが、甲状腺や前立腺に問題のある人は使い方が難しいので、医師の指導のもとで摂取する以外、お止めになってください。それに代わって、「アシタバ」のサプリメントをすすめます。次のぺージをお読みください。

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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